トモセラピーかダヴィンチか?

がんが見つかった昨年、「摘出しない」とすればどんな治療が良いのかネットで探していたとき、一番先に目についたのは「トモセラピー」という外照射治療システムでした。他の放射線治療装置とは違い、何か画期的な治療のように思えたのです。さて、実際のトモセラピーの力は・・。
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江戸川病院の医療セミナー「前立腺がんの最強治療!」

最近「前立腺がんの最強治療!」と題して江戸川病院の医療セミナーが行われ、「前立腺がんに対するトモセラピー」というビデオが公開されていました。トモセラピーと医療ロボット・ダヴィンチ(Da Vinci)との比較が興味深いものでしたので紹介します。


前立腺がんに対するトモセラピー 24分15秒(2015/11/30)
講師:江戸川病院  佃文雄

がん治療をこれから始めようとする方で、トモセラピーに関心がある方も少なくないでしょう。ここでは、そのセミナービデオの中から要点を抜き出して掲載しました。(文頭に☆印のついたタイトル以下の文は私のコメントです。)

時間がない・・結局どうなのかを知りたいなら、記事を飛ばして結論へどうぞ 
   ↓↓ 
実際の治療の選択は、トモセラピーかダヴィンチかではない

前立腺がんに対する放射線外照射 —- 4分20

トモセラピーはIMRTの仲間ではあるんですけども、成績っていうか治療の質が違う。3D-CRTはだいたい15年前から20年前に登場した方法です、今となってはもう古い。最低でもIMRT、ボクはトモセラピーが一番良いと思っています。

前立腺の形にあわせて放射線の分布も変え、合併症を予防 —- 7分30

前立腺のまわりにある直腸とか膀胱になるべく当てたくない。前立腺だけに集中したいんですけども、☆昔の3D-CRTに比べるとIMRTはだいぶ良くなった。それでもまわりに当たっちゃう、当たっちゃうと出血したり痛みがでやすくなる。そういう精度の違いっていうのが放射線治療の場合大きい。
 
☆前立腺の形にあわせて照射をする。 いろんな方向からあてるんですけど照射の強さも変える、で、その放射線の分布も変えるわけですね、それによって合併症を予防しようと。トモセラピーって方法は機械はくるくるくるくる回る、360度いろんな方向からあてる。

昔の3D-CRTに比べるとIMRTはだいぶ良くなった

放射線外照射治療では、限界に近い線量を照射しますから当然IMRTは必須。しかし放射線内照射との併用療法などでは、比較的低い線量のため前立腺周辺の線量をそれほど抑えなくても問題ないことから、あえて3D-CRTの照射が行われることもあります。その場合でもIGRTであれば画像誘導により高精度な照射がされますから、やはり最新の治療システムが一番です。

前立腺の形にあわせて照射をする

トモセラピーもIMRTの一種であり、前立腺の形にあわせ放射線の強さを変えながら多方向から照射をするという特徴はIMRTと同じ。
照射部が寝台を中心にくるくると連続回転し、その中を寝台が移動しながら「らせん状の照射」を行うため、広い照射野が得られるというのがトモセラピー特徴。通常のIMRTでも照射部は体のまわりを回転しますが、1回転以上することはなく、寝台も照射中に移動したりはしません。

放射線をあてればあてるほど効く —- 9分00

放射線治療って言うのは、放射線をあてれば当てるほど効くんです。☆たくさん当てるほど効くんだけれども合併症が出るので限界がある。
トモセラピーっていうのは、通常の放射線の機械より、より閾値が高い。限界が高い技術、というより機械の名前ですね。でCTも取れる、☆CTを撮ってそのまま放射線治療が進められるというのはこの機械しかない。
IMRTは、通常はCTと放射線治療の機械が離れてますから、CT撮ってまた移動して、そうしている間に尿がたまってきたり、便がたまってきたりすると前立腺が動いちゃうんですね。

たくさん当てるほど効くんだけれども合併症が出るので限界がある。

あたり前のようなことを言っているようですが、重要な意味を持っています。つまり外照射治療の放射線量は、必要な線量だからではなく、重大な合併症が起きない線量が限界となる。したがって現状のIMRTなどの外照射では治療に十分な線量を照射できていない可能性もある、と解釈できないこともないですね。

CTを撮ってそのまま放射線治療が進められるというのはこの機械しかない。

ここで比較している「通常の放射線の機械」とは一世代前のIMRTのことを言っているのでしょう。より新しい現在のIMRTは画像誘導(IGRT)機能を備えていますから、必要に応じて治療装置に寝たままCTやレントゲン撮影を行いそのまま放射線照射に移ることができます。

前立腺ってのは結構動く、位置あわせが凄く重要 —- 10分00

実は前立腺ってのは結構動くんです。1cmくらいすぐ動く、それだけで照射野がずれてしまう。そういうのを補正ができるわけですけども、この機械だと。3台あるのは江戸川病院だけ、☆ま、最高進化型、精度が高いということ。
毎回CTで位置をあわせる、この位置あわせが実は凄く重要なんですね。
精度が高いから、たくさんの線量をあてることができる。
患者さんは寝台に寝て、それがぐーと入って出てくる間に(照射部が)くるくるくるくる回る、いろんな方向からあてて前立腺の形にあわせたような照射ができる。1回の治療が15分くらい

ま、最高進化型、精度が高いということ

言い切ってますね、ま、病院の医療セミナーですから・・
画像誘導(IGRT)機能を備えたIMRTでは、CTやレントゲン撮影装置が内臓されていますから、精度の点でトモセラピーに遜色があるとは思えません。さらにIMRTの運用方法によっては、複数の金マーカーを前立腺周辺にあらかじめ手術で埋め込んでおき、画像誘導でより正確に位置をあわせる。あるいは動きやすい臓器に対して呼吸に同期して照射するということも可能となっています。トモセラピーの「精度が高い」というのは確かでしょう。照射前に毎回CTによる精密な位置合わせを行っています。

トモセラピーは照射中に寝台が移動するシステムですから、その照射野は非常に広く一回で複数のターゲットに照射することも可能です、その点においては「最高進化型」と言えるのかもしれません。

治療をしてもがんが残る人がいる、再発97人(8%) —- 11分35

江戸川病院でのこの7年くらい前からのデータ
H19年6月~H25年12月 1210人
平均年齢 71歳
PSA平均19.05
平均フォローアップ43ヶ月
再発97人(8%)
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再発っていうのはどういうことかと言うと、ま、前立腺のがんに対しては手術でもそうなんですけども、☆放射線にしてもやっぱり治療をしてもがんが残っちゃうって人がいるんですね。それが調べた期間の間で8%。そういう方には追加の治療がある。ま、不幸にしてなくなった方は4人(0.3%)、この成績は世界的にみても良いほうだと思う。

放射線にしてもやっぱり治療をしてもがんが残っちゃうって人がいるんですね

残っちゃうって人がいるでは困るのである。治療を受けた人にとっては、自分もそうではないかと不安になってしまうダメージの大きな言葉です。
単純に再発率8%と聞くと良い成績のようにも感じますが、平均4年程度の観察期間、すべてのリスクの方が混在している、再発の診断が難しい(PSAが上昇し再発の可能性があるような方でも、どの段階で再発とするかが難しい)ということを考えると、通常のIMRTより格段に良いというようには思えません。

15年、20年になると、ちょっと手術のほうが良いかも —- 15分55

前立腺がんに対するトモセラピーは、ま、治療成績は、いいと思います。
手術するのとほぼ同じ、ほぼ。
5年後ぐらいまでだったら、まず変わらない。
10年ぐらいたったら、ちょっとわからない。
☆15年、20年になると、ちょっと手術のほうが良いかもわからない。
それぐらい、いいということです。
ただ、ま合併症がやや多い、ただ多くは軽症だよ、ということが言えると思います。
年齢が高齢でもできます。80歳でも、85歳でも元気だったらできる
体に対する負担が少ないので高齢でもできる。

トモセラピーは再発の診断が難しい —- 17分30

再発の診断が難しい。PSAが0にはならない、1とか2とかぐらい、増減はある。再発して上がっているのか、肥大か、炎症か、診断が難しい。
手術をして再発をした方は10%くらいはいる、その場合は放射線治療ができるんだけども、放射線治療をして、先ほど言ったように再発は10%弱くらいはいる、その場合は手術は困難、そのときはお薬の治療を行う。
それと合併症がいつ発生するか予測ができない。、すぐなのか、案外2年後3年後、場合によっては5年くらい経って膀胱から出血する人もたまにいる。

15年、20年になると、ちょっと手術のほうが良いかもわからない

江戸川病院と言えばトモセラピー、これまで江戸川病院はトモセラピーにかなりの自信を持っているという印象でした。しかし今回のセミナーを聞いていると「10年ぐらいたったら、ちょっとわからない」という話をされており、非常に慎重な言い方ながら、根治性ということに関してはトモセラピーよりもダヴィンチのほうが、やや有利ととれる話をされています。

トモセラピー VS ダヴィンチ

ダヴィンチの成績は、たぶん放射線治療と大きくは変わらない。 —- 19分30

ダヴィンチは11日間の入院、年齢は75くらいまで、全身麻酔で3、4時間かかる。
治療効果、5年から10年経ったあとの(手術の)生存率は(放射線治療に対して)まず変わらない。
ダヴィンチっていうのは、まだ始まって日が浅い、特に日本では。10年の成績が出ていないないので、わからない。わからないけどたぶん大きくは変わらない。たとえば倍も変わらない、10年後に差が何パーセントあるかなというくらいしか変わらない。
 
手術の場合は麻酔に関する薬の合併症、出血、失禁、勃起不全の問題がある。しかし手術したあとより悪くはならないので、予想がつきやすい。
追加治療は、不幸にして再発した場合でもトモセラピーか薬剤を使う。しかしトモセラピーの場合は薬剤しかない。

トモセラピーは、—- 22分30

QOLって言うか生活の質、そう意味では体には楽なんだけどちょっと再発の心配がある、前立腺が残っているから。でも実際はあまりないんだけど。前立腺の大きい人は出にくい。

ダヴィンチをお勧めできるのは、若い人、進行がん —– 23分00

どういう人が向いているかと言うとですね、やっぱり若い人ですね。前立腺癌の場合の若い人は60代と思ってくださいね、70歳以下くらいの若い人は、はこっちのほうが良いかな。
ちょっと進行がんも手術が良いかもしれない。
で、なかなか難しい問題ですね、トモセラピーは高齢者がいい。心臓、肝臓、合併症が多い方はこっち(トモセラピー)が良い

この医療セミナーは病院主催のセミナーですから、当然のように「トモセラピーは最強、ダヴィンチも最強」、そして「江戸川病院は凄い」という流れなので、そのへんはいかがなものかと思います。しかしながら、それ以外は大筋で手術や放射線の利点や欠点をわかりやすく伝えていると思いました。

実際の治療の選択は、トモセラピーかダヴィンチかではない

私はいままで、江戸川病院と言えばトモセラピー大推薦のように感じていましたが、前立腺癌の根治ということでは、その主軸を「ダヴィンチ」に移したのではないかと感じました。
「トモセラピーの限界が見えてきた」ということかもしれません。トモセラピーが何か画期的な治療システムであるかのように思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、他の外照射治療システムに対してアドバンテージがある、ということでもなさそうです。このセミナーではこう言っています。

高齢者や合併症が多い方はトモセラピーで良いが、70歳以下くらいの若い人は手術(ダヴィンチ)を選んだほうが良い、進行がんも手術が良いかもしれない。

若いからこそ長期の非再発率が高い治療法を選びたいのですが、長期的に見ると手術よりトモセラピーのほうが再発の可能性がやや高いかもしれない、また進行がんに対してもトモセラピーのほうが成績は劣る・・ということを言っているのだと思います。

再発の可能性の低い治療を受けたいのは年齢の高い方も同じですが、若い方が再発を起こすとその治療に使われるホルモン薬で、性機能が奪われるだけでなく、まだ体が充分に元気であるのにホルモン薬が効かないCRPCに移行し命の危機を迎えることになりますから、なんとしても非再発率が高い治療法を選びたい。

では、その答えが「ダヴィンチ」かと言うと、それはあくまで江戸川病院内でのこと。これくらいシンプルに治療法の選択ができるのなら苦労はないのです。
ダヴィンチにによる全摘は体への負担が少ないものの、根治性と言う点では開腹手術に優れるというデータがあるわけではありません。また手術療法では、特に高リスクにおいて男性機能の温存が困難です。内視鏡や通常の開腹手術は時代から取り残された感がありますが、手術という選択肢に魅力を感じるならミニマム創なども検討すべきでしょう。

実際には、通常の放射線外照射(IMRT)や、小線源治療及びその外照射併用療法においても手術(ダヴィンチやミニマム創)を上回る良い成績の病院もあります。しかし病院ごとの技量の差は考えている以上に大きいようですから、結局は治療法と病院をセットで考える必要があり、その選択には誰もが頭を悩ませることになります。

トモセラピー VS IG-IMRT

トモセラピーの動作
トモセラピーをプリンターに例えてみましょう、紙が人体です、インクが放射線、照射対象である前立腺の形が紙に描かれれば、1回の照射が完了したということにします。
トモセラピーは紙の上を左から右に移動して、細い帯状の印刷をしてから、紙を少し送ります。
何度かそれを繰り返して、1つの絵ができあがります。実際には人体のまわりをトモセラピーの照射部(ガントリー)がぐるぐるまわりますから、紙が円筒形で、そのまわりをプリンタヘッド(トモセラピー)が回り絵を完成させるという、あり得ないプリンタになります。
トモセラピーは何枚ものスライスした画像を合成したものが照射範囲ですから、1回転目と2回転目、さらに3回転目以降のスライスした画像も、正確に並ばせる必要があります。それには紙、つまり人体が動かないことが条件です。もし紙が動くと隣り合う画像が重なったり、隙間があいたりして不都合が起きてしまいます。
トモセラピーは人体に対して正確な位置合わせが必要であり、人体を(実際には前立腺とその周辺臓器が)できるだけ動かないようにして照射しないと、いけないということがこの動作原理からわかります。「精度が高い」というのは必要条件なのです。

IG-IMRT

IMRTを例えるとすれば、スタンプ(ハンコ)でしょうか、紙が人体です、スタンプインキが放射線、照射対象である前立腺の形が紙に描かれれば、1回の照射が完了したということにします。
IMRTで放射線を5方向から照射するとすれば、形の違うスタンプを5回押せば、出来上がりです。こちらも紙が円筒形で、そのまわりの5方向からスタンプをポンと押す感じになります。
IMRTも人体に対して正確な位置合わせが必要ですが、照射はスライス画像の合成ではなく、スタンプであるため、画像自体のズレは起こりにくい構造です、しかしスタンプ同士の押す時間差がありますから、スタンプ同士のズレの可能性はあることになります。

このズレを吸収するのが、照射マージンですが、これは機械的な誤差を吸収するものではなく、人体の動きに対する物がほとんどであるということになります。
 
前立腺がんの放射線治療は、線量が高いほど癌を抑えられます。つまり線量が同じであれば効果も同じですから、IMRTかトモセラピーのどちらが効果が高いかという比較はあまり意味のあるものではありません。