小線源治療、緻密なシードの配置

シード線源挿入は繊細な作業

小線源治療は、泌尿器科の医師がシード線源を挿入し、放射線科の医師はディスプレイでその位置を確認。線量分布を見ながら次、という流れだと思うのですが、その様子はよくわかりません。意識はあるのですが、麻酔の副作用を抑える必要性から頭を上げられないからです。

麻酔が効いて苦痛は何もありません。術中に聞こえてくるのは静かな音楽と2人の先生の会話だけ。その中で印象的なのは「スモールc」とかの声です。これはシード線源挿入時の座標を相談している声のようで、「スモールcよりもxxxのほうが・・」のように、非常に慎重に座標を決めているという印象を受けました。

後日、放射線科K先生に「かなり位置の指定に手間をかけているようですが」と聞くと・・たとえもう少しラフに決めたとしても問題はないと思います。しかし”コンマ何パーセントのレベルでも根治率を向上させよう”とすると、より慎重に座標を選ぶ必要があるかもしれないから・・
というようなニュアンスの話をしていただきました。

このとき・・・ん、どこかで似たような逆の話を聞いたなと思いました。
 記憶をたどると↓
実は、前立腺癌の疑いで最初に診察を受けた担当医は、全摘手術だけでなく小線源治療も行なっていました。その医師の話では、過去にマウントサイナイのDr.ストーン先生から指導を受けたことがあるそうで、その時の指導は、Yes,Yes~という感じで、何かアバウトな感じを受けたと言っていました。

手術計画はリアルタイム法

この病院でもMount Sinai大学のDr. Stone先生の指導を受けたと聞いていますから想像ですが・・・初期の米国の手順は小線源の手法の基本を伝えるもので、その手順を各医師が継承、あるいは応用したものが現在の小線源治療と考えられるのかもしれません。
現在の手術計画はリアルタイム法により、挿入中のシード線源の線量分布が仮想的にモニタリングできますから比較的容易に配置ができそうなものです。しかし、今回2人の先生のやりとりを聞く限り、そう簡単なものではないということを感じました。

小線源治療の約1ヶ月後

密封小線源療法 ポストプラン

さて、肝心の私の治療状況はと言うと、小線源治療の約1ヶ月後のポストプランという診察を受けました。ポストプランでは線源の配置・線量の分布を確認するためのCT撮影がありました。

小線源の線量分布の確認

これは寝た状態での前立腺付近の垂直断面の画像で、ポストプランのCT画像にVariseedによって線量分布が描画されたものです。画像では中心より右側のほうが、照射範囲がやや大きく広がっていますが、これは私の腫瘍が左葉にあることへの配慮だと思われます(画像で左葉は右側)。

赤で示されているのが前立腺、その内側の辺縁域に白のシード線源(▽マーク)があります。黄色で示されるのが160Gy以上の高線量域ですが、中心部の尿道を避けていることがわかります。前立腺全体は、ほぼ緑の130Gyで囲まれ、さらにその外側の青の腺が処方線量の110Gyですが、いずれも直腸をぎりぎり避けているのがわかります。
参考:メジフィジックス|前立腺癌シード療法における 術中計画法

BED220Gy 高線量トリモダリティ


dose information

照射線量はD90(前立腺体積の90%)が130Gyの計画でしたが、ポストプランのdose informationからD90は127.92Gyであることがわかります。このため、後に予定されている外照射の回数で補正され、通常の25回より1回多い26回(26X1.8グレイ=46.8Gy)と決まりました。
BEDの計算式によれば、D90(127.92Gy)がBED133.7、外照射26X1.8gyがBED88.9となり、合計線量はBED222.6となりました。

※ 通常BED220Gyを得るには外照射の併用が必要で、D90が130Gyのヨウ素での小線源と45Gyの外照射を行います。小線源の線量は術後の画像から実計算、外照射の線量は理論上の値ということでしょう。

下の画像は、横方向からの断面に描画された線量分布ですが、こちらも高い線量域が尿道や直腸を避けているのがわかります。このように、小線源治療では立体的に理想的な線量分布が得られることと、その治療を後からでも可視化できることは大きな特徴だと思います。

これらの画像は放射線治療の担当医から提供していただきました。実際の画像上には直接、尿道や直腸、160gyなどと記入してあるわけではありません、文字はこちらで記入したものです。

ミリ単位のこだわり

患者ごとに癌の広がりや前立腺の形状などの条件が違います。小線源治療では、それにあわせてシード線源を高精度に配置する必要があります。職人のように指先の「勘が頼り」と思うかもしれませんが、そうではありません。「経験によって得たミリ単位に配置できる技術」をベースに、リアルタイム法による線量分布を見ながらミリ単位のレベルにこだわって論理的に配置していると聞いています。コンピューターによるアシストと放射線科の医師との連携が必須な治療です。
実際にポストプランで得られたCT画像に描画された線量分布ても、尿道や直腸を避けながら、精度良く前立腺の外側にまで照射されているのがわかります。


小線源治療について

放射線を出す小さな線源を前立腺内に挿入し、前立腺の内部から放射線を照射します。線源は純チタン製カプセルで長さ約4.5mm、直径約0.8mmで、この中に放射腺を放つヨウ素125(I-125)が密封されています。
これをシード線源といい、このカプセルは永久に前立腺に残りますが、ヨウ素125の半減期は約60日であるため、線源から放出される放射線は徐々に減少し6ヶ月で1/8、1年では1/64となり人体に影響のない線量になります。小線源治療を受けた患者さんは、以下のようなカードを1年間携帯することが義務づけられています。

前立腺は毎日全く同じ位置にあるとは限りません。外照射治療では、その前立腺に対してどのような方法で照射精度を保つかが難しい点ですが、シード線源を直接埋め込むこの方法では、前立腺が動いたり、変形したりしたとしてもそれに伴って線源も移動するためその問題が起きません。
 
密封小線源療法ではシード線源を主に前立腺の外周を狙って配置するなどして、ある程度の皮膜外浸潤にも対応しながら、尿道や直腸などのへの影響を最小に抑える、という理想的な線量分布を目指します。
しかしながら、これを実現するにはリアルタイム法は当然としても、熟練による医師の高い技量が必要であり、これが一部医療機関しか高リスクに小線源を適用しない理由の1つだと思われます。逆に考えると、医師の技量差で低い線量しか与えられない小線源治療が比較的多く存在するということです。
 
高精度の小線源治療をベースとして高リスクに適用させた治療がトリモダリティです。しかし体の負担が軽くはない(合併症も増える)ので、できれば小線源単独での治療が望まれます。一部医療機関では小線源単独でも中間リスクや高リスクの一部まで治療可能としています。

小線源単独による治療
私の主治医の話では、シード線源の高線量インプラントが可能であるため、中間リスクの前立腺癌であっても、この高線量を投与する技術によって、ほとんどの場合外部照射なしでの小線源単独で治療していると聞いています。
→滋賀医大 前立腺癌小線源治療

トリモダリティ体験記

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