前立腺がん:再発とは何なのか

医師に「がん」と告げられた時のことをご記憶だろうか、
その後、造影CTや骨シンチグラフィーなどの画像検査を指示されたはずだ。そしてその時「この後の検査で転移がなければ、手術が受けられます」などと言われるのだが・・

「骨シンチの結果を聞くまでは、ホント生きた心地がしなかった」
多くの方が、こう感じています。 そして、骨シンチの結果に問題がないなら・・泌尿器科医は、こう言う。

手術でも放射線でも根治性は同程度です。しかし、もし放射線治療を受けて再発した場合には、同じ箇所に再度の放射線照射をすることは「カラダ」が耐えられないので、できない。放射線治療後の手術による前立腺の摘出も困難なので、次に打つ手がない。

泌尿器科医はダビンチを勧めるのがお約束!

その点ダヴィンチなら、仮に再発しても放射線治療を受けられますから「チャンスは2度ある!」ということです。放射線治療は、もしもの時に備えて残しておきましょう(^_^)/ ・・などと言われると、この言葉に納得してしまう方も多い。
 
実は当時、私もこの「再発しても次の治療がある」をそう疑問に思わなかったばかりか、手術のほうが魅力的に思えた。しかしながら、よく調べてみると再発治療は、そう簡単ではないことがわかった。
再発時の放射線治療は救済放射線治療(サルベージ)と呼ばれるが、初回に放射線治療を受ける場合と比較して、高い根治性が望めないこと(50%程度の奏効率とされる)、合併症の危険性も増すことが知られている。また、再発と告げられた時の精神的なダメージは告知の時以上に大きいとも聞く。

そもそも医師は、当然のように摘出を勧めるが、摘出手術でなければ高い根治性が得られないのだろうか? 放射線治療を勧めないのはなぜなのか、よくわからなかった。

再発治療が有効なのは局所再発だけ

もし再発したら「再発箇所を治療をすれば良い」・・そう思われるかもしれないが、実際にはそう単純ではない。
再発治療が可能なのは、原則的に「局所再発」と推定される場合だけである。つまり、手術での再発の場合は前立腺床(前立腺があったあたり)、放射線治療であれば前立腺そのものに癌があると推定、あるいは特定できないと、その効果が期待できない。

転移した癌への根治治療はできない

もし局所ではなく、全身のリンパ節や骨、肺などへの転移(遠隔転移)の可能性が高いなら、現在の技術では転移に対する根治治療はほぼできないとされるため、唯一有効な継続的なホルモン療法を生涯受けることになる。
ただし、所属リンパ節(前立腺付近のリンパ)への転移のみと推定される場合は、例外的に外照射による根治治療が行われ根治できることがある。しかし骨転移の場合は、たとえ1、2箇所の転移を外照射にって消失させたとしても、その後、多発する場合が少なくないと聞く。遠隔転移が出現した場合は根治は困難というのが現実のようだ。

誰もが願う「完治」、ここでは根治と書いているが。
「根治」するのには「再発しないこと」以外にないのだ。そこで・・・

再発とは何なのか?を考えてみる

私達がん患者にとって一番恐れているのが ”再発” の2文字。再発を考えること自体、気乗りがしないとは思いますが、再発のメカニズムを知って、”再発リスクの小さい治療”とは何か、それを考えることが根治への道となるはずです。

まず、PSA再発から

前立腺癌治療において、一度低い値になっていたPSA値が治療後に再び上昇し、PSA値が再発基準値を上回ることがPSA再発とされます。
– – –
基準値は、手術療法では、0.2ng/mL
放射線療法では、2ng/mL
(正確には治療後の最低値+2)
– – –
この値が違うのはPSAを作る前立腺が手術療法では摘出されてしまうが、放射線療法では存在するためである。基準値を超えたら、それが実際の再発というわけではないが、その可能性を考えることになる。

手術療法における再発

手術療法において、一度大きく下がったPSAが、その後少しずつ上昇し0.2ngに達したという場合、再発の可能性が高い。しかしこの段階でCTや骨シンチなどの画像検査を行ったとしても何も映らないことが多いため、再発箇所を特定するのは難しい。再発までのPSAの推移や摘出前の病期、摘出後の病理診断結果などから再発原因を推定して、再発治療を開始するのが一般的だと思われる。

放射線療法における再発

治療の効果で、なだらかにPSAが低下し非常に低い水準まま経過するのが本来であるが、何らかの原因で再度PSAが上昇に向かい、再発が疑われることがある。
PSA値を押し上げる要因

  • PSAバウンス:1年とか2年という期間にわたって一時的に上下に揺れる現象
  • リカバリー:ホルモン療法を併用していた場合、その終了から投薬期間と同じくらい経過後、PSAも急上昇するという現象(これは、治療中は男性ホルモンがほとんど分泌されないためPSAは非常に低い値だが、それが復活することによる影響)
  • 前立腺の炎症:細菌性前立腺炎、非細菌性前立腺炎など(急上昇することがある)
  • その他の要因:自転車のサドルによる圧迫、過度の性的刺激、などの物理的刺激

治療の効果で低下する本来のPSAに、これらの影響を合成したものがPSA値となるため、治療後1、2年(あるいは3年近く)のPSA推移は複雑で上下することがよくある。このためPSAが基準値を超えることも珍しくなく、実際の再発との見極めは専門医でも難しいと思われる。実際の再発要因は以下の2つ
1.局所再発(前立腺内、あるいはその浸潤部分に残った僅かながん細胞が増殖)
2. 遠隔転移(リンパ節、胸骨、背骨、肺などに転移した細胞が増殖)

摘出手術における再発の原因とは:局所再発

摘出手術における局所再発は「癌を取り残したこと」によるもの。原因は初回治療に起因するものと考えて良い。

手術における再発:ダヴィンチなど
腫瘍が前立腺皮膜を超え周囲に浸潤していた。精嚢もしくは膀胱頚部に浸潤していた。・・などの場合、担当医の技量に問題がない場合でも腫瘍を取り残してしまう可能性が高い。
事前にそうと判明していれば手術をすべきでないのだが、事前の画像検査で腫瘍の広がりがはっきりと分かるわけではないため、手術でがんを含む前立腺全体を取ったとしても、周囲の組織に目に見えないレベルの微小ながんが残るなどして再発するとみられる。あるいは、前立腺に密接する尿道括約筋は切除しないため、その付近の癌の取り残しから膀胱との吻合部で再発が起きることもある。
 
前立腺に限局していると診断された場合でも25%の症例で再発を生じたという報告があるため、限局がんと診断された場合でも再発リスクは伴う。(よりわかりやすく言えば、前立腺の中に小さな癌があるだけ、と言われた場合でも4人に1人は再発するということ)特に高リスクでは、より高い割合で再発が起きると考えて良い。取りきれるかどうかは「やってみないとわからない」というのが摘出手術の現実です。
 
再発に対しては、再度根治を目指す「放射線のサルベージ照射」があり、その奏効率は5年後でおよそ50%程度とされる。しかしサルベージ照射は局所、つまり前立腺床(もと前立腺があったあたり)に対する治療である。このため仮に転移による再発であった場合は合併症が増すだけで効果がないことになるので、再発箇所の推測が重要となる。
 
もう1つの選択肢としてはホルモン療法があり、容易に実施できること、当面は劇的な効果がありPSAは一気に低下すること、などから高齢の患者に勧められているようだが、がん細胞が変異しホルモン療法が利かなくなるときがいつか来る(CRPC)ので、その選択は慎重にされたほうが良い。

放射線治療における再発の原因とは:局所再発

放射線治療における局所再発は、放射線で「すべての癌を消滅させられなかったこと」によるもの。初回治療に起因するものと考えて良い。
IMRTやVMATによるX線、重粒子線、陽子線などの外照射治療。LDRやHDRなどの小線源による内照射、さらにはサイバーナイフなどの治療まで非常に多様ではあるが、
再発とは、前立腺、及びその皮膜外浸潤部分、精嚢浸潤部などに対して、癌を消滅させるに足りる十分な放射線量が与えられなかったために、わずかな癌細胞が残ってしまい時間経過とともに増殖したもの。放射線治療の場合、ホルモン療法を併用することが多い、この場合治療後1,2年後のPSA再発は起こりにくいが、5年、10年経過後でも少ないながら再発はある。

外照射:VMAT, IMRT, TomoTherapyなどの場合
高精度の放射線治療システムであっても、ターゲットに必要十分な線量が照射されている・・とは限らない。なぜなら、前立腺は照射により「その機能を失ったとしても基本的生活には支障はない」と考えられるので、最大限の線量を照射したいところではあるが、本来照射の必要がない前立腺内の尿道や直腸、膀胱などの周辺臓器にも一定量の照射がされてしまう。しかし、これらの周辺臓器の許容線量は超えるわけにはいかないため、これにより上限線量が決まると思われる。このため癌を消滅させるのに十分な線量が照射できない場合もあると考えられる、よって局所再発は起こりうる。
 
重粒子線は、通常の外照射システムのX線よりも遥かに強力な照射であるとされるが、それは重粒子線の素性の良さであって、それがそのまま治療成績に結びつくわけではない。粒子線の制御は通常の放射線より遥かに難しいため、回転ガントリー、スキャニング照射など高精度照射に結びつく技術の開発は、比較的最近である。また、通常の放射線と同様に、本来照射の必要がない周辺臓器の許容線量によって上限線量が決まってしまうと思われるため、局所再発はある。
 
外照射の再発に対しては、一部の医師による救済小線源治療や摘出手術が行われているが、継続的なホルモン治療が一般的。

内照射の場合:LDR
小線源治療において、LDRでは1つのシードの照射範囲が数ミリと小さいため、非常にシャープな線量分布を得ることができる、これにより本来照射の必要がない周辺臓器に照射される線量を最小限に抑えることが可能となる。このため局所には外照射よりも遥かに高い線量(癌を消滅させるのに十分な線量)を照射することも可能となる。このため高リスクに対してもLDRを積極的に行っているような高い技量を持つ医療機関であれば、局所再発をゼロに近づけることも可能である。
しかし、辺縁配置が正確に行なえる技量がない場合、前立腺中心部にある尿道に高い線量が照射されてしまい尿道に強い炎症が現れことが予想されるため、そうならないよう全体の線量を下げるほかない。安全に高い線量が照射出来ない場合には、LDRであっても局所再発が起きる。LDRでは局所再発を起こした場合の救済治療は困難である。
 
内照射の場合:HDR
LDRに準ずるが、調査中

ここまでが局所再発であり、結果的に消滅していなっかたがん細胞が再び増殖したのであるから、再発ではなく、本来は再燃と呼ぶべきかもしれない。
さて、もうひとつの再発に、遠隔転移による再発がある。これは今の所どのような治療法によっても基本的に根治治療は困難であると考えて良い。

前立腺癌における再発の原因とは:遠隔転移

治療前に、胸部レントゲン、造影CT、骨シンチグラフィーなどにより、転移がないかどうかの検査を受け、どきどきされたことと思いますが、実は、PSA10や20程度では、これらのコンベンショナルな画像検査では微小な転移は発見できなくて普通だと思われる。それでも微小な転移がないことを確かめたいと考える方もいると思うが、今のところは困難です。
もし、仮に微小な転移が見つかったとしたら、根治療法は受けられないことになりますから、微小な転移を探すことにあまりメリットはない、「とりあえずなかった」で良いのです。

このような微小な転移が治療後に増大して転移がPSAを増加させた場合も再発として扱われるが、これは初回治療に起因するものではない。また、微小な転移が増大したことによる再発は、根治治療が困難であるため、通常はホルモン治療が実施される。

局所再発の場合は、比較的穏やかなPSAの上昇である。
所属リンパ節転移による再発ではより急なPSAの上昇になる。
骨転移の場合は、さらに急な上昇となるとされる。たとえ専門医であってもその上昇率だけで再発原因がわかるわけではない。
 
手術療法における局所再発は、もと前立腺があったあたりに取り残しがあると思われるが、画像検査で確認するのは困難(無理)だと思われる。放射線療法による局所再発は、前立腺の再生検によって調べることが可能ではある。

リンパ節転移

遠隔転移で、最も多いのはリンパ節への転移であるが、ホルモン療法を実施して、その前後のCT画像でリンパ節が縮小すれば転移であるとわかる。リンパ節転移においては、骨盤内のいくつかであれば、VMATによる外照射で転移を消失できる可能性もあると思われるが、全身に広がったリンパ節転移に対して放射線治療をするこは、まず無理と考えて良い。

骨転移

骨転移は骨シンチで確認できることもあるが、微小な転移では確認できない可能性が高い。仮に1つか2つ程度の骨転移が見つかった場合、それに対してVMATによる治療が実施されることもあるが、その後多くの骨転移が現れる場合も多いと聞くため、有効性はあまり高くはない。

肺、それ以外への臓器に転移

肺やそれ以外の臓器への転移もあるがリンパ節や骨転移ほど多くはない。仮に肺に転移したとしても、肺がんではなく、あくまで肺に転移した前立腺癌であるため、転移に対しては基本的にホルモン療法が有効である。
ホルモン療法の効果が続く限りは高いQOLが保てるのだが、いずれはCRPCに移行するのはやむおえないことのようだ。どれくらいの年月でCRPCに移行るかは個人差があるようだが、悪性度が高いほど早く移行するように思える。

結局のところ・・「根治」するには

「再発しない」治療を受けること以外にない。ご自身の病状を正確に推定すること、どのような治療法をどの医療機関で受けるかという選択を慎重に行えば、きっと根治への道が見えてくると信じます。


根治的治療後に再発した前立腺がんの診断と治療 藤井 靖久

再発の診断と、再発後の治療についてわかりやすく解説されている動画。

東京医科歯科大学大学院 腎泌尿器外科学教授 藤井 靖久

早期前立腺がん 摘出後2割再発

早期がんと診断され、1993年2002年にかけて前立腺の摘出手術を受けた男性1192人(47~83歳)の経過を追った。このがんの指標とされる血中の前立腺特異抗原(PSA) が一定の値を超え、がん細胞の増殖を示す「生化学的再発」と診断された人が302人(25.3%)いた。再発までの期間は一年以内の例が多く、4年以上たった例もあった。
九州大学大学院医学研究院泌尿器科学分野

放射線治療後の再発に対する再照射

放射線治療後の前立腺癌再発に対する再照射には低線量率・高線量率の密封小線源治療が用いられる。再照射に外部照射を用いる方法は直腸合併症率が高く、それを回避するにも技術的ハードルが高く、推奨されなくなった。
札幌高機能放射線治療センター:前立腺がんの再発病巣への局所治癒を目指した再照射

日経BPの残念な記事

以下の日経BP「がんナビ」(medical.nikkeibp)の記事は、日本放射線腫瘍学会総会のシンポジウムを紹介している記事なのではあるが、この記事のタイトルからは、ロボット支援手術の優位性を書いているように見える。VMATとRARPの比較もしているが、VMAT群は高リスク、高齢者が中心であり、患者背景が全く違うのだからあまり意味がない。記事の内容的には、放射線治療のほうが成績が良いと思える。
それでも、結局「手術は比較的若く高リスクの人に勧めることが多く」などと、若い方に勧められる治療であるかのような印象をもたせる結びとしているのは不自然だ。術後1年以降もパッド1日2枚以上の失禁が続く人は約1割という治療が、本当に若い方に適しているのだろうか。
実際に記事を読んいただければ、わかりますが、この記事をすっと理解できる方は、ほとんどいないであろうし、何を言いたいのか良くわからない。「八倉巻尚子=医学ライター」とはこんな程度なんだ、と皆さまが思われるなら、あなたのレベルもなかなかのものです。
↓↓このような記事に惑わされないようご注意ください

手術支援ロボットでPSA再発が減った前立腺がんの手術

VMAT(放射線)とRARP(ダビンチ)を比較した研究で、VMAT群のほうが高リスクの患者が多かった。PSA非再発生存期間はVMAT群のほうが良好。全生存期間はRARP群のほうが良かったが、これは「放射線療法を行った患者では合併症のある人が多いため」であり、実際にVMAT群では癌ではなく他の原因での死亡が多かった。

 したがって手術療法と放射線療法の比較は、患者背景が異なるため、どちらが有効かは明らかでないが、手術は比較的若く高リスクの人に勧めることが多く、高齢者は放射線療法を行うことが多いという。

なお、手術で起こりやすい副作用の1つである尿失禁について、RARPによる尿禁制(尿取りパッド20g、1日1枚以内)は、半数の人は術後2カ月で達成し、1年以降もパッド1日2枚以上の失禁が続く人は約1割だった
medical.nikkeibp.co.jp:自治医科大学医学部腎泌尿器外科学講座泌尿器科学部門 藤村哲也氏の講演内容を紹介
八倉巻尚子=医学ライター

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