前立腺がん:再発とは何なのか

医師に「がん」と告げられた後、
普通、造影CTや骨シンチグラフィーなどの画像検査を指示される。その時、「この後の検査で転移がなければ、手術が受けられます」などと言われるのだが・・

骨シンチの結果を聞くまでは、生きた心地がしなかった。
これがみんなの共通体験です。そして、骨シンチの結果に問題がないなら・・

泌尿器科医はダビンチを勧めるのがお約束

手術でも放射線でも「根治性は同程度」ですが、もし放射線治療を受けて再発した場合は、再度の放射線照射はできない。また放射線照射後の摘出手術は困難なので、次に打つ手がない。しかし、ダヴィンチなら再発しても放射線治療を受けられるので「チャンスは2度ある!」。放射線は、もしもの時に備えて残しておきましょう・・・などと聞くと、この言葉に納得される方も少なくない。
 
当時は「再発しても次の治療がある」をそう疑問に思わなかったが、調べてみると再発治療は、そう簡単ではないことがわかった。再発治療は初回治療ほど高い根治性が望めないばかりでなく合併症の危険性も増す。再発と告げられた精神的なダメージも相当大きく、次のチャンスの効果も不透明なのである。

治療が可能なのは局所再発に限られる

もし再発したら「再発箇所を治療をすれば良い」、そう思われるかもしれないが、実際はそう単純ではない。
再発治療が可能なのは、「局所再発」と推定される場合だけである。つまり、手術での再発の場合は前立腺床(前立腺があったあたり)、放射線治療であれば前立腺そのものに癌があると特定(推定)される必要があるのだが、その特定は容易ではない。

転移への根治治療はできない

もし局所ではなく、全身のリンパ節や骨、肺などへの転移(遠隔転移)の可能性が高いなら、現在の技術では転移に対する根治治療はできないとされるため、唯一有効な継続的なホルモン療法を生涯受けることになる。
ただし、所属リンパ節(前立腺付近のリンパ)への転移のみと推定される場合は、例外的に外照射による根治治療が行われ根治できることがある。しかし骨転移の場合は、たとえ1、2箇所の転移を外照射にって消失させたとしても、その後、多発する場合が多いとされるため根治は困難というのが現実のようです。

誰もが願う「完治」、ここでは根治と書いているが。
「根治」するのには「再発しないこと以外にない」のだ。そこで・・・

再発とは何なのか?を考えてみる

がん患者にとって一番恐れているのが”再発”の2文字。再発を考えること自体、気が進まないとはおもいますが、再発のメカニズムを知って、”再発リスクの小さい治療の選択”こそが根治への道となります。

まず、PSA再発から

前立腺癌治療において、一度低い値になっていたPSA値が治療後に再び上昇し、PSA値が再発基準値を上回ることがPSA再発です。
基準値は、手術療法では、0.2ng/mL
放射線療法では、2ng/mL(正確には治療後の最低値+2)
この値が違うのはPSAを作る前立腺が手術療法では摘出されてしまうが、放射線療法では存在するためである。基準値を超えたら、それが実際の再発というわけではないが、その可能性を考えることになる。

手術療法における再発

手術療法において、一度大きく下がったPSAが、その後少しずつ上昇し0.2ngに達したという場合、再発の可能性が高い。しかしこの段階でCTや骨シンチなどの画像検査を行ったとしても何も映らないことが多いため、再発箇所が特定するのは難しい。再発までのPSAの推移や摘出前の病期、悪性度などから再発原因を推定して再発治療を開始するのが一般的だと思われる。

放射線療法における再発

放射線療法では、治療の効果で普通はおだやかにPSAが低下するのであるが、術後に低下していたPSAが1年とか2年という期間にわたって一時的に上昇し下降するという現象(PSAバウンス)、およびホルモン療法を併用していた場合には、ホルモン薬の投薬終了からしばらくして男性ホルモンが復活するにつれてPSAも上昇するリカバリーという現象があり、この3つの影響でPSAが決まるため、治療後1、2年(あるいは3年近く)PSAが上下することがある。このためPSAが基準値を超えることも珍しくなく、実際の再発との見極めは専門医でも難しいと思われる。

摘出手術における再発の原因とは:局所再発

摘出手術における局所再発は「癌を取り残したこと」によるもの。原因は初回治療に起因するものと考えて良い。

手術における再発:ダヴィンチなど
腫瘍が前立腺皮膜を超え周囲に浸潤していた。精嚢もしくは膀胱頚部に浸潤していた。・・などの場合、担当医の技量に問題がない場合でも腫瘍を取り残してしまう可能性が高い。
事前にそうと判明していれば手術をすべきでないのだが、事前の画像検査で腫瘍の広がりがはっきりと分かるわけではないため、手術でがんを含む前立腺を取っても、周囲の組織に目に見えないレベルの微小ながんが残るなどして再発するとみられる。
 
前立腺に限局していると診断された場合でも25%の症例で再発を生じたという報告があるため、限局がんと診断された場合でも再発リスクは伴う。(よりわかりやすく言えば、前立腺の中に小さな癌があるだけ、と言われた場合でも4人に1人は再発するということ)特に高リスクでは、より高い割合で再発が起きると考えて良い。取りきれるかどうかは「やってみないとわからない」というのが摘出手術の現実です。
 
再発に対しては、再度根治を目指す「放射線のサルベージ照射」があり、その奏効率は5年後でおよそ50%程度とされる。しかしサルベージ照射は局所、つまり前立腺床(もと前立腺があったあたり)に対する治療である。このため仮に転移による再発であった場合は合併症が増すだけで効果がないことになるので、再発箇所の推測が重要となる。
 
もう1つの選択肢としてはホルモン療法があり、容易に実施できること、当面は劇的な効果がありPSAは一気に低下すること、などから多くの患者に勧められているように感じるが、がん細胞が変異しホルモン療法が利かなくなるときがいつか来る(CRPC)ので、その選択は慎重にされたほうが良い。

放射線治療における再発の原因とは:局所再発

放射線治療における局所再発は、放射線で「すべての癌を消滅させられなかったこと」によるもの。初回治療に起因するものと考えて良い。
IMRTやVMATによるX線、重粒子線、陽子線などの外照射治療。LDRやHDRなどの小線源による内照射、さらにはサイバーナイフなどの治療まで非常に多様ではあるが、
再発とは、前立腺、及びその皮膜外浸潤部分、精嚢浸潤部などに対して、癌を消滅させるに足りる十分な放射線量が与えられなかったために、わずかな癌細胞が残ってしまい時間経過とともに増殖したもの。

外照射:VMAT IMRT TomoTherapyなどの場合
高精度の放射線治療システムであっても、照射線量の限界は人の体が耐えられる放射線量で決まると考えて良い。前立腺は照射によりたとえその機能を失ったとしても基本的生活には支障はないので、最大限の線量を照射したいところではあるが、本来照射の必要がない前立腺内の尿道や直腸、膀胱などの周辺臓器にも一定量の照射がされてしまう。これらの周辺臓器の許容線量は超えるわけにはいかないため、これにより上限線量が決まる。このため癌を消滅させるのに十分な線量が照射できない場合もあると考えられるため、局所再発はある。
 
重粒子線は、通常の外照射システムのX線よりも遥かに強力な照射であるとされるが、それは重粒子線の素性の良さであって、それがそのまま治療成績に結びつくわけではない。外照射同様、本来照射の必要がない周辺臓器の許容線量によって上限線量が決まってしまうと思われるため、他の放射線同様に局所再発はある。
 
外照射の再発に対しては、一部の医師による救済小線源治療や摘出手術が行われているが、継続的なホルモン治療が一般的。

内照射の場合:LDR
小線源治療において、LDRでは1つのシードの照射範囲が数ミリと小さいため、非常にシャープな線量分布を得ることができる、これにより本来照射の必要がない周辺臓器に照射される線量を最小限に抑えることが可能となる。このため局所には外照射よりも遥かに高い線量(癌を消滅させるのに十分な線量)を照射することも可能となる。このため高リスクに対してもLDRを積極的に行っているような高い技量を持つ医療機関であれば、局所再発をゼロに近づけることも可能である。
しかし、辺縁配置が正確に行なえる技量がない場合、前立腺中心部にある尿道に高い線量が照射されてしまい尿道に強い炎症が現れことが予想されるため、そうならないよう全体の線量を下げるほかない。安全に高い線量が照射出来ない場合には、LDRであっても局所再発が起きる。LDRでは局所再発を起こした場合の救済治療は困難である。
 
内照射の場合:HDR
LDRに準ずるが、調査中

ここまでが局所再発であり、これは治療法によっては防ぐことができる。
しかし、もうひとつの再発に、遠隔転移による再発がある。これは今の所どのような治療法によっても基本的に根治治療は困難であると考えて良い。

前立腺癌における再発の原因とは:遠隔転移

治療前に、胸部レントゲン、造影CT、骨シンチグラフィーなどにより、転移がないかどうかの検査を受け、どきどきされたことと思いますが、実は、PSA10や20程度では、これらのコンベンショナルな画像検査では微小な転移は発見できなくて普通だと思われる。それでも微小な転移がないことを確かめたいと考える方もいると思うが、今のところは困難です。
もし、仮に微小な転移が見つかったとしたら、根治療法は受けられないことになりますから、微小な転移を探すことにあまりメリットはないのです。

このような微小な転移が治療後に増大して転移がPSAを増加させた場合も再発として扱われるが、これは初回治療に起因するものではない。
局所再発の場合は、比較的穏やかなPSAの上昇であるが、所属リンパ節転移による再発ではより急なPSAの上昇になる。骨転移の場合は、さらに急な上昇となるとされるが、専門医であってもPSAの上昇率だけで再発原因がわかるわけではない。
 
手術療法における局所再発は、もと前立腺があったあたりに取り残しがあると思われるが、検査で確認するのは困難だと思われる。放射線療法による局所再発は、前立腺の再生検によって調べることが可能ではある。

リンパ節転移

遠隔転移で、最も多いのはリンパ節への転移であるが、ホルモン療法を実施して、その前後のCT画像でリンパ節が縮小すれば転移であるとわかる。リンパ節転移においては、骨盤内のいくつかであれば、VMATによる外照射で転移を消失させる治療ができると思われるが、全身に広がったリンパ節転移に対して放射線治療をするこは、まず無理と考えて良い。

骨転移

骨転移は骨シンチで確認できるはずだが、微小な転移では画像で確認できない可能性もあると思われる。仮に1つか2つ程度の骨転移が見つかった場合、それに対してVMATによる治療が実施されることもあるが、その後多くの骨転移が現れる場合も多いと聞くため、この治療の有効性はあまり高くはない。

肺、それ以外への臓器に転移

肺やそれ以外の臓器への転移もあるがリンパ節や骨転移ほど多くはない。仮に肺に転移したとしても、肺がんではなく、あくまで肺に転移した前立腺癌であるため、転移に対しては基本的にホルモン療法が有効である。
ホルモン療法の効果が続く限りは高いQOLが保てるのだが、いずれはCRPCに移行するのはやむおえないことのようだ。どれくらいの年月でCRPCに移行るかは個人差があるようだが、悪性度が高いほど早く移行するように思える。

結局のところ・・「根治」するには

「再発しない」治療を受けること以外にない。ご自身の病状を正確に推定すること、どのような治療法をどの医療機関で受けるかという選択を慎重に行えば、きっと根治への道が見えてくると信じます。


根治的治療後に再発した前立腺がんの診断と治療 藤井 靖久

再発の診断と、再発後の治療についてわかりやすく解説されている動画。

東京医科歯科大学大学院 腎泌尿器外科学教授 藤井 靖久

早期前立腺がん 摘出後2割再発

早期がんと診断され、1993年2002年にかけて前立腺の摘出手術を受けた男性1192人(47~83歳)の経過を追った。このがんの指標とされる血中の前立腺特異抗原(PSA) が一定の値を超え、がん細胞の増殖を示す「生化学的再発」と診断された人が302人(25.3%)いた。再発までの期間は一年以内の例が多く、4年以上たった例もあった。
九州大学大学院医学研究院泌尿器科学分野

放射線治療後の再発に対する再照射

放射線治療後の前立腺癌再発に対する再照射には低線量率・高線量率の密封小線源治療が用いられる。再照射に外部照射を用いる方法は直腸合併症率が高く、それを回避するにも技術的ハードルが高く、推奨されなくなった。
札幌高機能放射線治療センター:前立腺がんの再発病巣への局所治癒を目指した再照射

以下のmedical.nikkeibpの記事は、タイトルから分かる通り、ロボット支援手術の優位性を書いている。VMATとRARPの比較をしているが、VMAT群は高リスク、高齢者が中心であり、患者背景が全く違うのだからあまり意味がないが、記事の内容的には、放射線治療のほうが成績が良いと思える。
それでも、結局「手術は比較的若く高リスクの人に勧めることが多く」などと、若い方に勧められる治療であるかのような印象をもたせる結びとしているのは不自然である。さらに術後1年以降もパッド1日2枚以上の失禁が続く人は約1割という治療が、若い方に適しているのだろうか。↓↓このような記事に惑わされないようご注意ください。

手術支援ロボットでPSA再発が減った前立腺がんの手術

VMAT(放射線)とRARP(ダビンチ)を比較した研究で、VMAT群のほうが高リスクの患者が多かった。PSA非再発生存期間はVMAT群のほうが良好。全生存期間はRARP群のほうが良かったが、これは「放射線療法を行った患者では合併症のある人が多いため」であり、実際にVMAT群では癌ではなく他の原因での死亡が多かった。

 したがって手術療法と放射線療法の比較は、患者背景が異なるため、どちらが有効かは明らかでないが、手術は比較的若く高リスクの人に勧めることが多く、高齢者は放射線療法を行うことが多いという。

なお、手術で起こりやすい副作用の1つである尿失禁について、RARPによる尿禁制(尿取りパッド20g、1日1枚以内)は、半数の人は術後2カ月で達成し、1年以降もパッド1日2枚以上の失禁が続く人は約1割だった
medical.nikkeibp.co.jp:自治医科大学医学部腎泌尿器外科学講座泌尿器科学部門 藤村哲也氏の講演内容を紹介
八倉巻尚子=医学ライター

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