資料:ハイリスク症例に対する小線源療法

私がトリモダリティに注目したのは、東京医療センター斉藤史郎医師による米国Mount Sinai大学の医師Dr. Stoneの公演の紹介報告「ハイリスク症例に対する密封小線源療法の可能性 」※1を読んでからです。

この報告でDr. Stone医師は、数多くの経験からリスクの高い症例に対してはBEDを高くした放射線治療が最も治療効果が高く、高いBEDを得るためには小線源と外照射の併用が最も効率的であるとしています。

▶1 ハイリスク症例に対する密封小線源療法の可能性|日本メジフィジックス株式会社
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Knowledge is Power、そう、調べることがきっと根治への道につながると思う。
Dr. Stone医師と同じMount SinaiのDr.Stock医師のページhttp://www.drrichardstock.com/

それでは、この報告書の要旨をここで紹介します。

「ハイリスク症例に対する密封小線源療法の可能性」の紹介

Best Approach for High Risk Prostate Cancer

Professor of Urology & Radiation Oncology, The Mount Sinai School of Medicine, USA Nelson N. Stone, MD

Dr. Stone医師の言葉を引用します

「局所進行の可能性のある高リスク前立腺癌に適正治療法はあるか」について考えてみましょう。例として次のような患者の治療法を考えて頂きたいと思います。患者は55歳男性、PSA値が20、cT2cの前立腺癌で、グリソンスコア8、生検コア60%に癌が認められ、前立腺体積は28cc 、性的にアクティブで、IPSS 6です。骨転移、CTスキャンは陰性で、被膜外浸潤と精嚢への浸潤について直腸内コイルMRIで陰性です。
 
このような比較的若い患者の予後が最も大切です。健康な55歳の男性であれば、あと20~30年は生存することが期待されます。このような前立腺癌治療にはいくつかの選択肢がありますが、泌尿器科医は、ほとんどが根治的前立腺全摘除術を選ぶでしょう。また同じ質問に放射線腫瘍医は、IMRTと2年間のホルモン療法だと大半が答えるでしょう。ですが私は、小線源療法とIMRT、そして9ヶ月間のホルモン療法の併用こそが、このような患者の治療にはベストであると信じています。

中間~高リスクに対する外照射の照射線量と非再発率の関係

線量を上げるほど優れた結果だが81Gyでも不十分

MSKCC※のDr. Michael Zelefsky医師によれば、中間~高リスク前立腺癌の場合、放射線療法の線量を上げるほど(最高で81Gy)優れた結果が得られる。しかし、81Gyであっても12%の患者に前立腺癌が残存(図7)。つまり、この限局性疾患の全てを根絶するには、81Gyでは不十分だった、としています。

※MSKCC:Memorial Sloan Kettering Cancer Center

BED(生物学的等価線量)を使って照射線量を比較する

BEDが高いほど治療後のPSA制御率が高い

BEDを用いる意義は、これにより小線源療法と他の照射方法の比較ができることです。また、放射線源がヨウ素、パラジウム、イリジウム192などと違っても同じ基準で比較できます。ここで明らかになったのは、BEDで計算された線量が高いほど治療後のPSA制御率が高くなるということ。例えば、ABS※が推奨している100Gyのヨウ素125と45Gyの外照射の併用はBED200Gyに匹敵します。
Cox回帰分析では、PSA再発を予測する重要な因子はPSA値、グリソンスコア、そしてBEDである、としています。

※ABS:American Brachytherapy Society

BED(Biologically Effective Dose)
BEDとは「生物学的等価線量」のことで、線量や照射回数の異なる外照射や内照射において、その効果や影響を比較することができる値。値が大きいほど組織に与える影響が強い。

高リスクに対するBEDと非再発率の関係

BED220超では86%が生化学的非再発

これは、米国Mount Sinai大学を始めとする6ヶ所の施設(※)における、グリソンスコアが7~10の前立腺癌に関する重要な研究です。約6000例の前立腺患者のうち、845例はグリソンスコア7、233例がグリソンスコア8~10です。
この研究でグリソンスコア8~10の患者のサブグループ解析によれば、BEDが220以下の群では61%、BED220超では86%が生化学的非再発(PSA非再発)という結果でした、としています。
 
BEDの違いによるPSA非再発率(対象:グリソンスコア8~10の患者)

※ Mount Sinai、MSKCC、Mayo Clinic、Cleveland Clinic、UCSF、New York Prostate Institute

このグラフではBEDが220を超える群において、5年以上のPSA非再発率の推移が直線となっています。つまりグリソンスコアが8以上の高悪性度の癌であっても、高いBEDを照射することで再発が良く抑えられていることがわかります。

短期ホルモン療法の有無によるPSA非再発率

ホルモン療法実施群では94%がPSA非再発

さらに、このグラフでは非常に高い線量であるBED220Gy以上を照射した患者において、短期ホルモン療法を加えた場合とそうでない場合の比較です。ホルモンなしの患者のPSA非再発は75%であるのに対し、短期ホルモン療法実施群では、実に94%がPSA非再発であった、としています。

高リスクにおけるBEDの違いによる非転移率

BED220を超える群においては非転移率100%

これはグリソンスコアが8~10の患者に対する高線量放射線療法の効果を示したもので、照射線量が高いほど転移していない比率が高くなっています。BED200~220群では94%と、それ以下の群に対してあきらかに良い成績ですが、BED220を超える群においては100%と転移が起きないことが示されています。
Cox回帰分析を行うと、外照射とBEDが重要でした、としています。

BEDの違いによる非転移率(対象:グリソンスコア8~10の患者)

ハイリスク前立腺癌への治療戦略

ここまでのデータが示すのは、ハイグレードの前立腺癌患者でも局所疾患を根絶させれば転移は起きず、前立腺癌で死ぬこともなくなるということです。
220Gy超という高線量のBEDを得るためには、ヨウ素での小線源療法でD90を130Gyにし、さらに45Gyの外照射療法の併用が必要ですが、このとき短期のホルモン療法を併用すればさらに効果が高まります。このような130Gy(D90)のヨウ素と45Gyの外照射(α/β=2)の併用療法で得られる線量に匹敵するBEDを、もし外照射療法だけで得ようとすると117Gyが必要になり、とても実行できるものではない、としています。

220Gy以上のBEDを得る併用療法は、はたして安全なのか?

220Gy以上のBEDを得るためにこのような併用療法を行うとなると、これが安全なのかという問題を考えなければなりませんが、以下の報告では、88.7%に消化管疾患はなく、10.6%にグレード1~2の有害事象を認め、4例(0.7%)にグレード3~4の損傷があったとしています。
このグレード3~4の損傷は潰瘍と瘻孔でしたが、これら4例のうち3例が220Gy未満で、1例は220Gy以上でした。つまり”直腸の有害事象の発生とBEDに関連はない”ということがわかる、としています。
 
RTOGで報告している直腸での有害事象の発生率

Dr. Stoneの講演では結論として、小線源療法に外照射療法と9ヶ月のホルモン療法を併用することで局所制御率は98%※ となり、高リスクの前立腺癌にはこれがベストな治療法と考えられます。高いBEDが照射されるためには小線源療法は必要であり、また高いBEDを照射してもその安全性は増悪しません。としています。

※ 局所制御率は98%

この場合の局所とは前立腺のことであり、制御率とは「再発しない割合」ですから、前立腺に限った非再発率が98%ということです。実際の非再発率はこれに遠隔転移による再発を加えたものですが、手術でも放射線でも基本的には前立腺に限った治療しか行なえませんから、局所制御率は98%という値は治療法として非常に優れた値、ということです。

-トリモダリティによるハイリスク症例の攻略-

Mt.Sinai大学 Dr.Stoneのハイリスク前立腺癌に対する治療戦略

Mt.Sinai大学では、外照射(EBRT)は小線源療法(I-125)後に施行しており、I-125+EBRTにてD90>220Gy(BED)、つまり外照射と小線源のD90がBED換算で220Gyを超えることを目標としている。また、各指標について以下の線量を目標として計画している。
<中・高リスク群のトリモダリティーにおける小線源療法の目標線量>
1. 処方線量 110Gy
2. D90 130Gy(前立腺体積の90%に照射されている線量)
3. V150 50%以下(165Gy以上が照射されている前立腺体積の割合)
4. 尿道D30 165Gy以下(尿道体積30%に照射されている線量)
5. 直腸V100 1.3cc以下(110Gy以上が照射されている直腸体積)

事前ホルモン療法を小線源に対して3ヶ月先行して行い、小線源治療後に1.8Gy✕25回、45Gyを照射する。小線源治療後にホルモン療法は6ヶ月間。
※ 精嚢生検、直腸内コイルMRI、という記述があるが、これは日本ではあまり実施されていないと思われる。


インターネットの情報の信頼性は?

インターネットで「前立腺がん」を検索すると非常に多くの情報や広告が飛び込んできます。それが信頼できる情報かどうかを判断するのは、治療に詳しくないと難しいでしょう。しかし前立腺がん治療がわからないから調べているのですから、情報が正しいかどうか判断するのは困難です。例えば病院からの情報は得意な治療法を勧めるだろうし、マスコミは興味本意の情報かもしれない、一見中立的に見えるが誰が書いたかわからないようなページは広告への誘導が目的という場合も多いのです。

このページでは「日本メジフィジックス株式会社」の情報を引用していますが、この会社の情報はどうなのか考えてみましょう。メジフィジックスは放射性医薬品のメーカーです、このような医薬品、製薬会社などの情報は、扱う製品の広告的なものと想像されるかもしれませんが、その顧客は、多くの医師、病院ですから、もし偏った情報を提供したらクレームがつくだろうと予想されます。こう考えると医薬品や製薬会社などの情報は自社製品を中心としたものであっても、比較的中立な立場で書かれた情報でなければ成立しないということがわかりますから、信頼性が高いと考えて良さそうです。


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トリモダリティ体験記

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