放射線外照射について、さらに詳しく

トリモダリティ、外照射の詳細

目をつぶって寝ていても良いのですが・・最先端のメカが目の前にあるわけですから、自分が治療を受ける身でありながら、機械がどんな働きをするんだろうと興味深々でした。

なぜ4門放射なのだろうか?

放射線治療システム Novalis Tx

novalistx
ここの放射線治療システムはNovalis Txという高機能な装置で、画像誘導のIGRT機能を備え、IMRTやダイナミックな回転照射(VMAT)もサポートしています。これらの機能を使えば、多方向から前立腺付近に絞った照射を行うこともできるはずです。
それなのになぜシンプルな4門放射なのか、というのが不思議でした。そのへんのところを伺ってみると・・・

前立腺がんで、放射線外照射単独による治療ではターゲット(前立腺や精嚢)に非常に高い線量を照射する必要がある。その限界は周辺臓器に照射される線量の限界(放射線によっておきる合併症の程度が許容範囲であるような線量)によって決まるためIMRTなどの技術を使って、周辺臓器への線量を極力下げることが高線量照射には必要となる。
 
担当医によれば、小線源併用での外照射は、45gy程度なので外照射単独ほど高い線量ではない。前立腺周辺にもある程度の線量が照射されるが、問題ないレベルなので4門放射で十分である。それと「従来からこの手順で行ってきて良い成績を上げているのに、それを別の方法に変える積極的な理由はない」とのこと。

こんな説明をしていただきました。ご希望ならIMRTでの照射もできますがテストしてみましょうか?(冗談でしょうが)と言われましたが、もちろん辞退。もしかすると4門放射であることに何かプラス要因もあるのかもしれません。

照射計画、3DCRT 4門放射 45gy

これは私の実際の照射計画で、仰向けに寝た状態で体の真上からの照射する時です。赤い線が前立腺、それを大きく包む青の腺が照射範囲です。これを見ると外照射(3DCRT)でも、およそ前立腺と精嚢の形状に合わせて照射野を絞っているように見えます。

各照射方向から見れば、前立腺や精嚢の形に沿った照射ですが、次の図、体の前立腺付近の断面に描かれた照射範囲は、このように前立腺を中心とした十字型になっています。これは外照射は外から放射線が体を突き抜けるように帯状にしか照射できないためで、実際にはこのように90度ごとに4方向から放射線が照射されることになります。4門放射ではその照射範囲が重複した中にターゲットがあります。

この図で、中心に尿道を包むように前立腺(赤い線)があり、そのすぐ下にある黒い部分が直腸です。したがって尿道や直腸の一部、隣り合う膀胱の一部にも前立腺と同じ線量(中央部の四角が、およそ45gy)が照射されてしまうことがわかります。

おそらくこの時の、尿道や直腸、膀胱の一部に照射される放射線によって、頻尿、頻便、切迫便などの合併症が出ると予想されます。

さらに照射計画を3Dで表示させたのがこれ、ブルーで示されるのが照射範囲ですが、前立腺よりも大きく広がっていることがわかります。

それでも高精度な照射は必要

外照射のIMRT治療に比べて、小線源併用の場合の外照射は4門と聞くと何かざっくりと当てるという感じがします。しかし位置合わせは慎重に行われており、画像誘導(照射直前にX線撮影で前立腺の位置を確認)を使っています。この時、前立腺の挿入されたシード線源が映像で見えることから位置あわせには都合が良いそうです。

照射時にはIMRTと同様にMLC(マルチリーフコリメータ)という自在な形に変化する絞りのような機構で放射線を必要なビーム形状に成型します。

MLC HD120 Beam Shaper、中央部(2.5mm leaves 8cm)

MLCは前立腺の形状に合わせますが、高リスクの場合は精嚢を含んだ前立腺+精嚢という形で照射が行われているようです。当然このビーム形状は患者ごとに違い、また照射方向(上下左右)によってもそのビーム形状は変化しますが、この時少し広めのマージン(10ミリ?)をとる照射をしているとのことですから、この点でも安定した照射が期待できそうです。

なぜ3DCRT 4門放射なのか:

骨盤領域を照射する場合には四門照射が基本のようです。この場合上下、左右と対向照射ですから、およそ十字型に高線量の領域ができますが、放射線は体をそのまま透過するわけではなく衰減し前立腺に到達するまでには周辺より弱くなってしまうため、単純に十字型に高線量の領域ができるわけではないようです。

調べてみると外照射の方法は病院によって違うようで、例えば国立病院機構埼玉病院では小線源治療と併用の外照射の場合でも金マーカーを挿入しIMRTによる照射を行うとなっていました。IMRTも3DCRTも照射線量が同じであれば治療効果は同じはずですが、IMRTでは、直腸や膀胱に照射される線量をある程度抑えられるので、放射線による障害は減らせるはず。この方法でも従来の方法と同等以上の成績をあげられるかどうかに注目したいところです。


これは、IMRTと3Dによる外照射の高線量域(オレンジ)を比較したイメージです。図で右が膀胱、下側が直腸です。前立腺の線量は同じですが、IMRTでは、膀胱、直腸とも線量が抑えられています。しかし3Dでは膀胱、直腸の一部がオレンジ(高線量域)になっています。したがって、膀胱、直腸の一部にある程度の放射線障害による出血が起こりますが、担当医によれば45gy程度なので問題ないレベルとのこと。

埼玉病院 / 前立腺癌に対する小線源治療

早期前立腺癌に対する治療としては、手術だけでなく、通常の放射線療法とともに、米国における標準的治療である小線源療法を積極的に行っております。小線源治療について、泌尿器科医長(門間)は本邦における初症例となる国立病院機構東京医療センターにおける2003年9月での治療開始時より治療を行い、治療経験が極めて豊富です。
→ 国立病院機構 埼玉病院 / 前立腺癌に対する小線源治療

当院の外部照射は IMRT(強度変調放射線治療)という方法で行っており、従来の外部照射(3D-CRT)よりも直腸や膀胱などの周囲臓器への照射を抑えることができます。IMRT による照射を正確に行うために小線源治療時に、金マーカー(長さ約 1 ㎝;純金製)を 2 個、前立腺の外に挿入します。
当院での前立腺癌小線源治療の説明パンフレット ver3.0(PDF)


トリモダリティ体験記

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