前立腺癌の治療法を1ページで!

再発が起きるのは運次第ではなく「癌を取り残したか、消滅させられなかったこと」によるもので、再発原因の多くは初回治療に起因するものです。

では、再発しないためには「どんな治療を選んだらよいのか・・」となるのだが、どんな治療法があるのか知らないのが普通ですね。そこで前立腺癌の治療法を一気に紹介します。

手術療法

 摘出手術
全身麻酔をした上で開腹し、前立腺と精嚢を切除する。前立腺の中心部にある尿道ごと切除されるため、膀胱と尿道を直接つなぎ合わせる。さらに、根治性を向上させるため骨盤内の多数のリンパ節の切除(リンパ節郭清 ※1)が推奨されている。この摘出によって失われるものがいくつかある。


da Vinci:画像:da Vinci Xi – Surgical System│Acibadem International

ダヴィンチ
泌尿器科医に普通に勧められるのがこのロボット支援手術で、現在の手術療法におけるメインストリーム。保険が適用されて以降一気に普及した。ロボット支援手術と言えど、摘出する部位などの手術の内容は従来の手術と違いはない。機能温存に優れ低侵襲とされるのは良いのだが、従来の摘出手術に比べて根治性が高いとは限らない。
出血が少ないとされるのは、炭酸ガスを患者のお腹に注入することで膨らませ与圧をかけるためで、これにより視野と手術操作に必要な空間を確保する。医師はハイビジョン3D内視鏡を装着してロボットアームを操作して行うという、従来の手術とは全く違う手法ではあるが、術者の養成期間は従来の手術より短かくて済む。しかしながら、高い根治性を得るには多くの症例をこなす必要があるとされる。(症例数100以上でも、症例を重ねると根治性が向上する)
将来的には、術者の技量の向上、システム自体の改良などで、ロボット支援手術が他の手術を凌駕することになると思われる。

画像引用:VA Northern California Health Care System

ミニマム創手術
従来の摘出手術より切開創を小さくして腹腔鏡補助下で行う開腹手術。炭酸ガスを使ってお腹を膨らませることはしないが、ハイビジョンを使った拡大視により精密な手術を行うことで、出血は少なく通常輸血を必要としない。機能温存にも優れる。根治性の向上のため、拡大前立腺全摘術+拡大リンパ節郭清を勧められることもあるが、その場合には勃起神経の温存はできない。
根治性という点でロボット支援手術より優れる可能性はあるが、その優劣より医療機関ごとの技量差のほうが支配的と思われる。術者の高い技量が必要とされるためその養成はロボットより難しい。

開放手術
従来からの摘出手術。ベテランの医師が多いとは思われるが、あえて選ぶ理由はないかもしれない。ロボット支援下手術やミニマム創への移行で大きく減少していると思われる。

腹腔鏡手術
低侵襲であるが、術者の非常に高い技量が必要とされる腹腔鏡手術では、術者の養成は非常に難しい。それを代替しようとしているのが、現在のロボット支援下手術あるため、あえて選ぶ理由はないかもしれない。

放射線療法 ■ 外照射

 放射線外照射
体を水平にして寝台に固定し、そのまわりをガントリーという放射線照射部が回転し前立腺に放射線を集中的に照射する。これによって、がん細胞の遺伝子にダメージを与え増殖できなくすることで、がん細胞が死滅に導く治療法。「放射線のエネルギーで癌を焼き切る」というイメージを持たれている方がいるがそれは間違いである。前立腺癌治療は普通、週5回x8、9週間程度だが、1回の線量を高くして照射回数を減らした寡分割照射もある。IGRT(画像誘導放射線治療)に対応したシステムであれば、治療システムの違いによる優劣はそれほどないはず。それよりも治療計画を立てる医療機関側の技量のほうが根治率に影響すると思われる。
→ 前立腺がんの放射線療法|ASTRAZENECA


画像:Varian Truebeam IGRT
IMRT(アイエムアールティー:強度変調放射線治療):
患者の体を中心にして照射部を回転させ、静止した状態で多方向から自在な形状の照射を行い局所に線量を集中させる。現在の外照射治療の多くはこのシステム。
治療システム:バリアン トゥルービーム、エレクタ シナジー など多数

トモセラピー
IMRTの一種だが、細い帯状の放射線を体を中心にして回転しながら照射、同時にCTのように寝台もシステムの中を移動させるため、局所には螺旋状の照射が行われるシステム。多方向からの照射で局所に線量を集中させる点はIMRTと同じであり、このシステムにこだわる理由はないと思われる。
治療システム:トモセラピー(アキュレイ社のシステム)

VMAT(ブイマット:強度変調回転放射線治療):
IMRTの応用型、自在な形状の放射線を回転しながら照射することで従来より短時間で高精度な照射を行うことができるシステム。これからの照射法として期待できる。
治療システム:バリアン トゥルービーム、エレクタ シナジー など(VMATに対応しているシステムでは、通常IMRT,3D-CRTを含むIGRT治療が可能)

SBRT(エスビーアールティー:定位放射線治療):
VMATなどで高精度に強い線量を与え照射回数を低減した照射法。一部の大学病院で実施されており、これからの照射法として期待が持てるが、まだ一般的ではないかもしれない。しばしばハイドロゲルによる直腸の移動、金マーカーの留置とともに実施される。

3D-CRT(三次元原体照射法):
前立腺癌の初回治療としては過去のもの。IMRTほど自在に照射野を絞れないため、周辺への不必要な照射を防ぐ必要性から、IMRTほど高い線量を照射できない。
他の治療法との併用治療や再発後の救済照射などの場合は別で、照射範囲をシャープに絞る必要がない場合、同じ線量であればIMRTに比べ遜色はなく、安定した照射が可能。

サイバーナイフ
ロボットアームの先端から放射線の細いビームを局所に対して自在な位置から照射する。定位放射線治療として、前立腺癌の初回治療に用いる病院もあるが症例も少なく一般的ではないと考えて良い。(この治療に関しては調査中)

放射線療法 ■ 組織内照射

 小線源療法(LDR、HDR)
前立腺内部に、多数の放射線源を挿入し、前立腺細胞に直接放射線を照射する。これによりがん細胞の遺伝子にダメージを与え、時間経過と共にすべての癌細胞を死滅に導く治療法。死滅させるのに十分な高い照射線量が必要とされるため、それを安全に与えるためには高い技量が必要とされる。医療機関によって技量差があり根治性に直結するため、小線源療法では高リスクでも高い根治実績のある医療機関で治療を受けるべき。
 
治療にLDRかHDRを使うかは医療機関ごとの考えかたの違いであるので患者が選択できるが、小線源治療における単独、外照射併用、トリモダリティのどれを適用するかは担当医の判断、患者の選択ではない。


前立腺癌に対する高線量率組織内照射(HDR) 青木 学
低線量率密封小線源(LDR)
シードと呼ばれる低線量のヨウ素125を封入したピンを50~100本程度前立腺内に挿入し永久留置し、約6ヶ月に渡って内部から放射線を照射する治療法。治療後も放射線を出さなくなったシードが体内に残るが、体に害を及ぼすことはなく、その存在は知覚できない。
低線量というと治療効果が低いと思われるかもしれないが、そうではない。放射線治療の効果は線量と照射時間の積算であり、半減期2ヶ月のヨウ素125を使うため局所には非常に高い積算線量となる一方、線源の周り5mm程度しか影響を与えないため、周辺臓器への影響は少ないという特徴がある。・

外照射併用小線源療法(LDR+外照射)
おもに、高リスクに対応するために、小線源治療130Gyに外照射45Gy(5週間程度)を併用する治療法、併用により小線源単独より更に高い線量を照射できる。

トリモダリティ(LDR+外照射+ホルモン療法)
高リスク以上、超高リスクへの治療法で、組織内照射+外照射、さらに計画的にホルモン療法を併用する治療法。非常に高い悪性度であっても根治可能とされる。→LDRトリモダリティ

小線源単独療法(LDR)
外照射+小線源の実績を元に、体への負担をできるだけ軽減するために、小線源だけで併用療法(外照射+小線源)に近い治療効果を得る治療法であり高リスクにも対応できる。併用療法における小線源に比べ、より高い線量を与える必要があり、精度が要求されるため一部の医療期間でしか実施していない。
 多くの病院で実施している小線源単独治療は、線量が不足しているため低リスクにしか適用しない。中間リスクには外照射を併用して成績を向上させようとしているが、小線源の線量不足を補えるものではない。ここで言う「小線源単独療法」とは全く別のものである。

高線量率密封小線源(HDR)
RALSと呼ばれる専用の装置を用いて、LDRよりも1桁高い線量のイリジウム線源を一時的に前立腺に挿入し、入院中の内部からの数回の照射のみで治療を完了する治療法。退院後は体内に放射線源は残らない。HDRは線源の周りに与える影響が強いため、高リスク、超高リスク向けに用いられることが多く、外照射併用、あるいはさらにホルモン治療を併用したトリモダリティ治療(HDRトリモダリティ)となることが多い。

粒子線治療

前立腺に粒子線を照射して、がん細胞を死滅させる治療法。従来は高額であったが、現在は保険が適用されるため金額的には治療の敷居が低くなった。

 粒子線治療
従来のIMRTなどの放射線治療における放射線は体表面に強く当たり、深いところでは衰弱してゆくのに対して、粒子線は深いところにエネルギーのピーク(ブラッグピーク)を作ることができる。この点において粒子線の物理的特性はX線より優れている。
しかし照射精度や位置合わせという実施に直接関わる面では、最新の放射線外照射治療システムに劣る場合もある。(粒子線治療でも古い施設では照射部分(ガントリー)が固定されていて、単純な2方向照射である。新しい施設では高精度照射が可能になっていると思われます)

 ※ サガハイマットの重粒子線治療 参照

重粒子線治療
炭素イオンを、粒子加速器で加速しがん病巣に照射する
画像引用:東芝エネルギーシステムズ

陽子線治療
水素の原子核(陽子)を粒子加速器で加速しがん病巣に照射

内分泌療法

根治治療においては、放射線外照射治療における事前治療として用いられ、これは放射線の効果を増す働きを期待するものです。また、小線源治療では肥大した前立腺を縮小するために使われることがあります。転移のある患者さんに対しては標準的治療法ですが、CRPCへの移行が懸念されます。

内分泌療法は、男性ホルモンの産生を抑えることで、癌を含む前立腺細胞の活動を抑止してしまう治療法で、
まるで特効薬のように良く効きます。投薬後1月以上経過するとPSAは劇的に低下し、普通に1,2桁小さな値になります。しかし転移のある患者さんでは、長期間に渡って使われるため、いずれは効かない時が来てCRPC(去勢抵抗性前立腺がん)に移行します。CRPCに対しては抗がん剤が使われます。
 
前立腺がんの多くは、男性ホルモンの影響を受けて増殖しています。内分泌療法(ホルモン療法)は、男性ホルモンの分泌や働きを抑えることによって、前立腺がん細胞の増殖を抑制しようとする治療法。
前立腺がんの内分泌療法|ASTRAZENECA

内分泌療法の併用療法
男性ホルモン(テストステロン)の約95%は精巣から分泌されていますが、約5%の男性ホルモンは副腎より産生されるため、この、両方とも抑えてしまおうというのが併用療法でCAB(combined androgen blockade)療法またはMAB(maximal androgen blockade)療法と呼ばれています。

化学療法(抗がん剤)

通常、初回治療に使われることはありません。

男性ホルモンの分泌が抑えられているにもかかわらず、進行が食い止められない前立腺がんのことを「去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)」といい、次の手段の一つとして化学療法が検討されます。

その他の治療法

■ 研究段階

HIFUは超音波を前立腺の1点に集め、そのエネルギーで約90度に加熱することで組織を壊死させるもの、治療範囲の設定が難しいと思われる。一部の大学病院や医療機関で実施されている、保険は適用されない。一度の治療で効果が得られなければ再治療が可能なところが特徴であり、一部の医療機関では前立腺全体ではなく一部を治療するフォーカルセラピーへの応用が検討されているが、部分治療はいまだ研究段階に近い医療と思われるため、通常の選択肢とはならないと考えていい。
 
クライオセラピーは、国内では放射線治療後の再発患者に対するフォーカルセラピーとして慈恵医大、三木先生が研究を進めている。アルゴンガスを前立腺内に注入し「凍結し組織を壊死させるもの」ではあるが、その凍結領域を正確にコントロールするのが難しいと思われる。国内では症例数は非常に少なく数例。
→ 前立腺癌のフォーカルセラピーの現状と展望 PDF

HIFU 高密度焦点式超音波
クライオセラピー 凍結療法

■ 治療法として確立されたものではない

免疫療法、ワクチン療法、温熱療法などは、治療法として確立されたものではない。インターネットでは、これらの広告をしばしば目にする、慣れないと非常に魅力的な治療に思えるかもしれないが、惑わされないよう注意されたい。選択肢とはならない。

がん免疫療法
樹状細胞ワクチン療法
温熱療法 など
前立腺癌に対する、免疫チェックポイント阻害剤

参考リンク

小線源の適用はグリソンスコア6であるとか、外照射では3D-CRTに対するIMRTの優位性を示すなど、一昔前の情報を掲載しているのは問題外だが、HIFE、ダヴィンチ手術、粒子線治療に関しては詳しい情報を掲載している
前立腺がんの治療法一覧│ReasonWhy Inc


前立腺全摘除術 補足説明

ASTRAZENECAには、こう書かれているが、少し説明が足りない

前立腺全摘除術は、がんが前立腺内にとどまっている限局がんの患者さんにおいては、根治の可能性が高い治療法です。
局所浸潤がんの患者さんの場合は、はじめに内分泌療法でがんを小さくしてから手術を行ったり、手術の後に放射線療法や内分泌療法を行うことがあります。
→ 前立腺がんの手術療法|ASTRAZENECA

ASTRAZENECAは正しいが、がんが前立腺内にとどまっているかどうかは、術前の画像診断だけではっきりとわかるものではない。つまり「限局がん」であると診断された場合でも、術後にそうでなかった、と知らされることもあるので、「根治の可能性が高い」を信じるべきではない。
局所浸潤がんの場合の説明で、「手術の後に放射線療法や内分泌療法を行うことがある」としているが、一般的なことではない。これらは手術によって癌を取り切れなかった、あるいはその可能性が高い場合に、その救済治療として行われるものですから、実質、手術の失敗のリカバリーである。

サガハイマットの重粒子線治療

「がん病巣をピンポイントで狙いうち」、「特に重粒子線は、陽子線よりもさらに線量集中性が優れ、がん細胞に対する殺傷効果が2~3倍大きい」という記述を読めば、誰でも、殺傷効果が2~3倍大きい理想的な治療なら、根治性も2~3倍になると想像されると思います。もし本当にそうならいくら払ってもこの治療法を選ぶべきです。以下は、サガハイマットからの引用です。

重粒子線及び陽子線は、体の表面では放射線量が弱く、がん病巣において放射線量がピークになる特性(ブラッグ・ピーク)を有しています。このため、がん病巣をピンポイントで狙いうちすることができ、がん病巣にダメージを十分与えながら、正常細胞へのダメージを最小限に抑えることが可能です。
特に重粒子線は、陽子線よりもさらに線量集中性が優れ、がん細胞に対する殺傷効果が2~3倍大きいとされているため、照射回数をさらに少なく、治療期間をより短くすることが可能です。
→九州国際重粒子線がん治療センター (サガハイマット)

しかしながら、私はこう考える。
癌に対する殺傷効果が2~3倍大きいなら、正常細胞への影響も2~3倍大きいと考えるのが自然です。またブラッグ・ピークによって「ピンポイントで狙いうちする」としていますが、それはターゲット(照射対象)がきちんと固定されている場合の理論ではないか。
前立腺癌において、前立腺は隣り合う直腸や膀胱の動き、変形によって、絶えず少しづつ動いているとされます。放射線照射において、前立腺が一定の位置にあると期待できるのは2分くらいまでという報告もありますから、前立腺の位置をCTやレントゲンなどで特定後、短時間で照射を終えるのが理想です。
粒子線に限らず、IMRTなどの外照射でも同じですが、照射時間が終わるまでの時間が長いなら、動く範囲を想定してやや広めのマージンを取って照射するほかないわけです。このマージン内に前立腺に隣り合う直腸や膀胱の一部が含まれてしまいますから、それらの臓器に対しては「強力な殺傷効果が及ばないようにする必要性が生じます」。
つまり、重粒子線が理論上非常に優秀で、強力な殺傷効果を持っているにしても、その運用上は隣り合う直腸や膀胱への副作用が許容できる範囲に収まる線量でしか照射できない、ということになります。
前立腺に対して相対的に非常に高い精度で照射できるなら、より線量を上げられるということでもありますが、現時点において粒子線治療が通常の外照射(IMRT)を超える精度であるかどうかは疑問です。同程度の精度であれば、その効果も外照射を凌ぐというわけにはいかないでしょう。
 
サガハイマットの文には、「照射回数をさらに少なく、治療期間をより短くすることが可能」と書かれていますが、その通りでしょう。しかし肝心なのは、根治(完治)性です。外照射治療などの通常の放射線治療に対して根治性において優れているという記述は、なさそうです。