トリモダリティーという決断に迷いがなかったかと言うと・・実はそうでもない。 癌治療などというものは生まれて初めてのこと、その治療法によっては命の危機を迎えるかもしれないと思うと、そう簡単には決断できません。
高リスク前立腺癌に最適な治療法は何か
気になっていたのは、癌に高い線量を照射し癌を押さえ込むという「トリモダリティの考え方」です。とても納得できるものであったが、”それを実施している医療機関がなぜ少ないのか”という疑問です。高い根治性が期待できる治療法なのだから、もっと多くの病院で実施していて良いはずだと思いました。そこで再度”高リスク前立腺癌に最適な治療法は何か”を調べ直したのだが、これがどうも良くわからない。
それと、PSA値が非常に低いにもかかわらず生検16本中5本も陽性、しかもグリソンスコアが全て4+4=8の癌です。もしかして通常の腺がんとは違う悪い性質の癌なのかという不安もありました。
医師は私に最適な治療法を提示してくれる、に違いない・・
そこで、当然のように思いついたのがセカンドオピニオン。この一大事にこれを使わなくていつ使うの・・と思いました。私の担当医は、この病院でセカンドオピニオンを受けている先生でもあったため、それを切り出すのは簡単でした。
担当医にセカンドオピニオンを受けたい、という話をすると。先生はご自身の治療に自信を持っておられるためか、納得できるまで行ってきてくださいと快く承諾してくれました。・・でもあまり時間をかけると癌が進行するかもしれませんから程々に、とも。
セカンドオピニオンは、今の担当医とは違った角度からの話を聞きたいということもあり、放射線治療に強いと言われる東京JK医科大にしました。私は放射線科A木先生宛てに書いてもらうつもりでしたが、担当医からは「JK医大なら、ここはやはりE川先生でしょう」と言われ、受け取ったのは泌尿器科E川先生宛ての紹介状でした。後日、JK医大に行ってセカンドオピニオンに必要な書類と紹介状を提出、生検サンプルや検査データも病院から直接送っていただきました。
セカンドオピニオン当日、東京JK医大での緊張の30分
Q:先生、私の前立腺がんに最適な治療法は?
当日受付に行くと診察券を作るように言われ、そのあと1階の個室に案内されました。E先生は東京Jk医科大泌尿器科学講座の教授です。少し待たされたあと、威厳たっぷりのエリート医師という雰囲気で現れ、私の前に座りました。話は前立腺癌治療の大まかな説明から始まったのですが、その途中で先生は、事前に病院から送ってもらったデータと生検サンプルと思える封筒を取り出し、なんとその場で封を切った。
そんなですから、話は私の検査結果を参照するわけでもなく、前立腺癌の一般的な説明でただ時間だけが過ぎてゆきました。私は落胆しつつも、これではいけないと思い「私の高リスク前立腺癌に最適な治療法は何でしょう」と切り出すと、先生はなんと・・
A:「わかりません」
と答えた。
これは驚きました、「わかりません」と医者が言うのは、ありですか?。それと同時に、この話は絶対何処かに書こうと思いましたね。あとで考えてみると、私と同じ質問はよくされそうなことですから、この答えは何度も使っているに違いない。偉い先生ですから、うっかり「こう」とはいえないわけで、これが「さすがだ、深い」と思わせる模範解答に違いありません。でもねぇ・・・
私は何のためにここまで来たのか・・
このセカンドオピニオンは空振りだったのか・・・
先生は「手術を望まないのであれば、あなたの望む放射線治療をすれば良いと思います」など、言葉を選んで話されているようで、患者の意思を尊重するという方針なのかもしれませんが、まるで治療法を提案するのを避けているように感じました。
グリソンスコアによる予後の違いは?
しかたがないので、
Q:グリソンスコアが根治性に及ぼす影響について聞いてみた。
A:それは1つの違いでも大きな違いで、GS6とGS7、あるいはGS7とGS8では大きく予後が変わってくる。
Q:それならGS7(3+4)とGS7(4+3)も違うのかと尋ねてみると
Aそれも違う
という話でした。これは重く受け止めるしかありません。結局30分間のセカンドオピニオンは、あっと言う間に終わりに近づき、最後に
Q:「私のがんにトリモダリティー治療は有効でしょうか」と尋ねると
A:「その治療法でも十分に完治できる可能性がある」
とは答えていただきましたが・・・でもねぇ♂※?!✕&凹▽※?凸?..。
次の診察の時、がんセンターの担当医にこの話をすると「そうですか、E川先生はあまり意見を言いたくなかったのかなぁ、A木先生のほうが良かったかな、もう一度行きますか?」と言われましたが、私は「行きません」と即答しました。この時点で、「もうこうなったら全部自分で決めるんだから」という、このサイトでは珍しくボールドを指定してしまうほどの固い決意ができていました。・・しかし、この点でセカンドオピニオンは空振りではなく、もしかすると「大成功」だっだと言えるのかもしれません!?
議論の多い高リスク前立腺癌の治療法
実際のところ”高リスク前立腺癌の治療は、いまだ確立されていない”ので「わからない」という深いお答えをいただいたのかもしれません。そうであったとしても、それを踏まえた上でもう一歩踏み込んだ話をしていただきたかった。患者にとって模範解答などなんの価値もありません。
J医大は放射線治療ではIMRT、HDR、LDR、さらに全摘では腹腔鏡と幅広い前立腺がん治療をしているからこその、高度なアドバイスを期待して行ったのです。しかし全くの期待ハズレでした。セカンドオピニオンで医師の本意を聞くのは、案外難しいことなのかもしれません。
しかし、せっかくここまで読んでいただいたのに「あらら・・」という展開だけでは申し訳ありませんから、ネット上のこんな文書もご覧ください。
弘前大学泌尿器科教授 大山 力 先生による解説
prostate specific antigen(PSA)によるスクリーニングが普及した現在でも,新規に診断される限局性前立腺癌の15~26%は高リスク群に分類される(文献1)。高リスク前立腺癌は低・中リスク群よりも悪性度と進行度が高く,PSA再発の頻度のみならず,二次治療の必要性,転移の頻度,前立腺癌死率ともに,ほかのリスク群よりも高い(文献2)。
高リスク前立腺癌の治療選択に関しては議論の多いところであり,放射線療法あるいは手術療法のどちらか一方の優位性を証明する十分なエビデンスは存在しない。
高リスク前立腺癌の手術療法 :日本医事新報社
No.4754(2015年6月6日発行)
セカンドオピニオン
セカンドオピニオンは、違う医療機関の医師に、現在の治療や今後の治療選択などについて、意見を求めることです。その時に意見を伺うだけでなく紹介した医師にセカンドオピニオンの報告書が戻されると聞きましたから、セカンドオピニオンの意見を踏まえて、後日、担当医と次の治療を相談するというのがセカンドオピニオン本来のあり方です。
したがってセカンドオピニオンは現在の医療機関より専門性が高いなど、実力が上と思われるところにしないと意味がありません。
注意すべきは、セカンドオピニオンは担当医を変えたり、転院することとは違うということです。セカンドオピニオンでは治療をすることはなく、意見を求めることだけです。
また、現在の医療機関の治療に不満があってセカンドオピニオンを受けるということもあるでしょう。その場合、セカンドオピニオン先の治療が良いと思い転院を考えるなら、再度紹介状を持ってその病院で診察を受ける必要があります。
セカンドオピニオンは患者の権利ですから、担当医に堂々とお願いして良いと思います。もしセカンドオピニオンを切り出したら、とたんに担当医が不機嫌になるようなら、そんな医師からは去ったほうが良いですね。
転院と紹介状
検査や治療をする医療機関の選択も患者の権利です。
癌の疑いから医師に生検が必要と勧められた時は、検査をどこで受けるのかも重要な選択です。生検も医療機関によって技量差がありますから、少なくとも実績の多い病院で受けたほうが無難です。生検に先立ってMRIでの画像検査も必須と考えてください。もし生検によって癌が確定した場合には、その生検前の画像データが治療に役立つためです。
癌が確定してすべての検査が終わった時、その病院が提案する治療に納得できるかどうかです。転院する場合は、担当医に「この病院で診察を受けたい」と相談し、紹介状を書いてもらい診察に行くのが普通です。紹介状にはそれまでの検査データも含まれるのが普通ですから、転院が決まった場合でも重複する検査を省くことができます。転院先で治療を開始する場合でも再度生検をするということは、ほとんど考えられません。検査した病院に生検のプレパラートの貸出を依頼するのが普通です。
放射線治療の場合、治療を開始してしまうと転院するのは非常に難しくなります、但しその前の段階としてホルモン治療を受けているだけなら、転院しても問題ありません。手術の場合には、仮に摘出手術を受ける予約をしたとして、たとえ前日に手術を受けることを拒否したとしても認められると聞きました。このように患者の権利は大きく認められていますが、実際には病院側への配慮もある程度必要です。
再び治療の話に・・