そして、生検の結果説明の日、
私の名が呼ばれ、診察室の椅子にすわるとすぐ、
先生は、カルテが表示されたディスプレイを見ながら、こう告げた
「検査の結果 がんが見つかりました」
入室から10秒も経っていないというのに、いきなりの癌告知。まさに不意打でした。 が、それでも私に大きな驚きはなく、
やはり癌か・・・ただ、そう思った。
”癌の告知”などというものは、
もっと劇的なシーンだと思って、少し期待している自分もいたのだが拍子抜けしてしまった。驚きとか悲しみといった気持ちも湧いてこないし、周囲の明るさだって変化しない。ただただ深く沈んだ気持ちとでも言えば良いのだろうか・・
私の場合、MRIの結果から「たぶん見つかる」と思っていたので、告知されたこと自体にそう衝撃は受けなかった。しかし、その一方で「癌ではないかもしれない」という淡い期待を多少なりとも抱いていたのだが、その線もこれで完全に消えた。
これまで”告知”などというものは ”しばらくの沈黙のあと、医師が患者の目を見ながら、静かに語りかける” とかだと思っていたのに、現実はTVドラマよりもずうーっとクールだった。先生は忙しいのである。
あるいは、あえて事務的に告げることで「告知は特別なことではない」と思わせる患者への配慮、もしくは単に「事実を伝えるだけにする」という先生の方針かもしれない。
私は少し静かになった部屋で、先生の話しを少しも聞き漏らすまいと話の続きに集中した。
グリソンスコア8、高リスク前立腺癌
しかしである、私が全く予想していなかったのは、16本の生検サンプル中の5本から癌が見つかり、しかもグリソンスコア8の「高悪性度」と診断されたこと。これはいったい、どういうことなのだろう??。
診 断 [がん診療連携拠点病院、Tがんセンター]
癌かどうか: 腺 癌
TMN病期分類: T2b 腫瘍は左葉に限局するが、半分を超えて進展
悪 性 度: グリソンスコア8
陽 性 率: 32%(16本中5本が陽性)
PSA: 2.97ng/ml
触 診: 異常はない
リスク分類: 高リスク
当時、なぜか病院が混んでいたこともあって、なかなか検査が進まず、癌の疑いを知らされてから告知まで実に3ヶ月もかかりました。当然その間は不安なので暇さえあればネットで調べていましたから、告知の頃には、もう随分と癌に詳しくなっていたため、医師の説明は普通に理解できました。
「癌」の告知よりも、
高リスク(前立腺癌)である、ということが衝撃だった
PSAが2.97(ng/mL)と低い値なら、癌がみつかったとしても「せいぜい中間リスク迄だろう」と思っていたのに、診断は高悪性度の前立腺腫瘍があるため「ハイリスク前立腺がん」とされた。これは全くの想定外で、
担当医から「根治が難しい」と告げられても、この時は医者の言うことだから慎重に言っているだけだろうと思いました。
しかし、家に帰ってから調べてみるとグリソンスコア8、陽性サンプル5本ということの重さに気付かされました。
これは、どうも軽い癌ではないようだ・・。
[説明]
体験談本文はここまで、
どのページでも、下の区切り線以下は本文に関連する情報や解説です
これ以下を読み飛ばして読み進めても大丈夫です。
PSAと前立腺癌の関係、PSA3で癌なんてあるの?
これをお読みの方に誤解を与えそうなことが1つ。「PSA3で高悪性度の前立腺癌」とは、いったいどういうことなのか?・・意味がわからない。 それなら「PSAが5とか10の人はどう診断されるんだろう?」という不安を持たれたかもしれませんが、大丈夫です。PSA値と癌の悪性度には直接の関係はないのです。
例えば、PSAが10や20以上であっても「グリソンスコア7」というのは良くあることです。しかしPSAが1桁でもグリソンスコアが8や9以上という方も、少ないながら存在します。私はその少ない側です。また、PSAが3程度で癌が見つかるケースも少ないのですが、そのうえ「高リスク」などと診断される人は、そう多くはいません。
私は「高リスク」という診断に驚かされましたが、この時は「たまたま高リスクとされただけかも」という自分に都合の良い解釈もしていました。
※ しかし・・この時の私はまだ知らないのですが、実は後日、がんの悪性度が別の病理医によって再評価され、高リスクから、まさかの『超高リスク前立腺癌』に再評価されるという驚きの未来が待っているのでした。ま、体験談を書くには”PSA3なのに超高リスク”くらいのほうが緊張感があって良いのかもしれませんがね。
高悪性度の腫瘍はPSAをあまり出さないこともある
癌が疑われる場合、1回のPSA値ではなくその変化に注目します。もし癌である場合、癌の大きさに比例するようにPSAが上昇しますから、以前測定したPSA値と比較することで、およその癌の増殖スピードがわかります。
PSA値が2倍になる期間をPSA-DT
前立腺がんの場合、PSA-DTは平均2~3年。遅いものでは4~5年とされます。一般にPSA-DTが長いなら、もし癌であったとしても悪性度は低い(急ぎの治療は必要としない)。また前立腺の体積に比例してPSAは増加するため、前立腺肥大が原因のPSA上昇も考慮する必要がある。
しかし、PSAが1年で1.5倍とか2倍とかになるくらいに急にPSAが上昇しているなら、高悪性度の癌の可能性があるかもしれません、要注意です。
ただし、短期的にさらに高いPSA上昇を示しているなら、癌ではなく前立腺の炎症という可能性もあるので、それとの切り分けも必要です。
注意してほしいのは、PSAの値がそのまま”癌の進行度を表すわけではない”こと。グリソンスコアが高い、つまり高悪性度(低分化型)の腫瘍ではPSAをあまり出さないこともあるため、少ないながら低いPSAでも進行している症例もあることです。逆に腫瘍の悪性度がそれほど高くないなら、たとえPSAが10や20以上であったとしても、限局癌である場合がほとんどです。
ダブリング・タイム│前立腺がんの増殖スピード
特殊なタイプ(低分化型)をのぞくと、前立腺がんの増殖スピードはかなりゆっくりしている。 がんが倍の大きさになるのに要する時間を「ダブリング・タイム」といいます。前立腺がんの場合、これが平均2~3年。遅いものでは4~5年といわれます。
高齢で発見された微小ながん(1cc以下)で、PSA値も低く、増殖スピードの遅いがん(高分化型)を、「臨床的に意味のないがん」といいます。前立腺がんは、老化と密接に関係したがんで、80歳以上で死亡した人を解剖すると、顕微鏡で見える程度の微小な前立腺がんが20~30パーセントに見られます。しかし、50代、60代の前立腺がんには、基本的にはこうした意味のないがんはありません。
がんサポート│監修:高橋悟 東京大学付属病院泌尿器外科助教授
グリソン・スコア(Gleason Score)
病理医が生検プレパラートの癌の組織の形状と浸潤の状況から、その悪性度を1~5の5段階に分けたものをグリソングレードと言い、数字が大きいほど悪性度が高いことを示します。さらに癌組織の最も優勢な部分と次に優勢な部分のグリソングレードを加算したものをグリソン・スコア(Gleason Score)として表します。例えば、グリソンスコア7(4+3=7)なら中間リスク前立腺癌という診断。
▶ 悪性度とリスク分類 – 前立腺癌|jjzzg
治療後約3年経過>> 今だからわかること
先日、担当医から改めて説明されたことによれば、私の癌は低いPSAであっても高悪性度の例外的な症例であり、それをネットで紹介すると「低いPSAでも危険」という誤解を生むことになる「非常に悪い症例」なので、断り書きを入れるべきだと言われました。
なぜ私に「トリモダリティ」が適用されたのか
担当医によれば、私の腫瘍は一応GS8(当初の病理診断)ではあったが、特に高い悪性度の腫瘍に共通する特徴がみられ、病理医によってはGS10と診断される可能性のあった腫瘍である。PSAは3程度だが、あまりPSAを産生しないタイプの腫瘍だとすれば、このPSA値は進行度の参考にはならない。このためPSAが20や30以上の方と同程度のリスクとして治療を計画したという。
一般にPSA1桁、GS8程度なら、高リスクの入り口みたいなもので、特に驚くような診断ではないのです。事実、滋賀医大でもこのレベルでは「小線源単独」が適用されている患者さんも多い。1桁のPSAでもトリモダリティが必要なほど危険な患者は例外的な症例とのこと、皆様ご安心ください。
追記: 2018年9月
・・・・・
たった2ページで、癌の疑いから前立腺癌の告知まで進めました。
次は「がんと告知」された直後の話なのですが・・その前に、これからの話を理解していただくために必要な、前立腺、精嚢、尿道に関する話と、少し時間を戻して、MRI検査、前立腺生検の話に移ります。
トリモダリティ体験記