手術療法と放射線治療のどちらを選ぶのか?
前立腺癌治療において、手術療法の次に多いのが放射線治療。放射線外照射、小線源、粒子線治療など多くの治療法がある。担当医から、この病院でできない治療も含めて、放射線治療の説明も受けました。
放射線治療
放射線外照射(IMRT)
事前に、この病院には高精度照射が可能なIMRT(エレクタ・シナジー)があることがわかっていましたから、外照射治療という選択肢もあると思ったのです。しかし、担当の泌尿器科の医師からはIMRTは勧められないと言われました。私はそれでも外照射治療について知りたいと話したところ、後日同じ病院の放射線治療専門医の診察を受けることができました。
ところが・・実際に放射線科の診察を受けてみると、”外照射は可能だが非再発率で全摘手術に劣る”(※1)と即答されたので、「どうして放射線治療の可能性を検討してくれないのか」と聞くと、患者ごとに事前のカンファレンスで治療方針が決めてあるとのこと・・「あなたの場合は、高リスクなので摘出手術をお勧めする」と言われてしまいました。これでは放射線科で話を聞く意味がありません。
重量子線、陽子線
担当医から重量子線や陽子線の話も伺いました。最先端の技術という面では興味深々なのですが、治療を受けられる施設が限られ、健康保険が適用されないため高額で約300万という数字を聞き驚きました。前立腺癌に対して通常の放射線外照射(IMRT)よりも効果が高いのかどうか、あとで調べてみましたが、どうもはっきりしません。
重量子線、陽子線治療は、現在は保険が適用されるため、全額を払う必要がなくなりました 追記:2018年
最先端のシステムが提供する医療が、患者にとって最良の治療とは限らない。先端技術が目指しているのは本当に根治性なのか疑ったほうが良い。巨額の投資をした治療システムは、それを回収するために患者を集める必要があるって事情もあるかもしれません。
じじ..じぇんじぇんがん:重粒子線治療 を支えているのは前立腺癌
密封小線源療法(密封小線源治療)
この病院では密封小線源療法も行っています。生検の検査入院時に、同じ検査に来ていた方から、もし治療を受けるとすればこの病院の内照射療法(小線源)を選ぶという話を聞き、この治療法に興味がありました。私もこの治療法ができないのか聞いてみたところ、密封小線源療法は低リスクに対して行う、外照射併用でも中間リスクの患者までしか適用できないとのことで、あなたは適用外ときっぱり言われてしまいました。
内分泌薬、抗がん剤
内分泌薬による治療や、抗がん剤よる治療は根治治療ではなく、転移がある場合にはこれらの薬物による治療が使われる。ただし内分泌薬による治療は高齢で手術が受けられない場合や、高齢で悪性度が低い場合の治療にも用いられる。
グリソンスコア8、陽性率32%
高リスクでの選択肢は少ない・・全摘手術か転院か?
担当医からの説明は一般的な前立腺癌治療の話で、私のようなグリソンスコア8以上などの高リスク前立腺癌の場合は、この病院での選択肢は少なく、拡大全摘手術か、紹介状を持って他の病院に行くかという2択なのでした。
前立腺癌の放射線治療について
前立腺癌の放射線治療
現在では、放射線治療によっても前立腺癌を完治(根治)させることができます。放射線治療では、前立腺に対して、できるだけ高い線量を照射したほうが再発リスクを下げることが出来ます。しかし前立腺周辺には膀胱や直腸があり、これらの臓器に対しては照射線量をできるだけ抑え合併症を防ぐことが必要になります。
このため、放射線治療ではどんな方法で前立腺に高い線量を集中させられるかがポイントですが、実際には、やむなく周辺臓器に照射されてしまう線量を、重い障害を起こさないレベルに抑えなくてはならないため、それによって前立腺に照射する線量の上限が決まってしまいます。
画像:cyberknife ACCURAY
手術で摘出範囲にあたるのが外照射治療での照射野(照射範囲)ですが、手術と違い実際に切除するわけではないので、ある程度周辺臓器に合併症が出ることを想定した上で、手術より少し広い照射範囲を設定することもできます。その場合、ある程度の皮膜外浸潤に対しても対応できるというメリットが生まれます。それには、どのような方法で照射精度を保つのかが放射線治療の難しさではないかと思います。
一方、がんを死滅させるにはどれくらいの線量が必要なのか、そしてそれは実施可能なのかどうかという問題もあり、非常に高い線量を照射すれば、すべて癌を抑えられるとする医師と、照射によっても死滅しないがんがある可能性があるとする医師もいます。”放射線によって全ての癌を死滅させられるなら再発はしません”
密封小線源療法の適用について
密封小線源療法は低リスクか、外照射併用でも中間リスク患者までしか適用できない、とする医療機関が多いようです。そう言われた場合はその医療機関では高リスクに対応できないということです。一部の医療機関では中間リスクの多くを小線源単独で、高リスクでも他の治療と組み合わせることで小線源療法を実施しています。
参照:緻密なシードの配置|密封小線源療法について
放射線外照射
IMRTによる外照射治療
Intensity Modulated Radiation Therapy (IMRT)
現在主流の強度変調放射線治療(Intensity Modulated Radiation Therapy)の略称がIMRTです。5方向あるいはそれ以上の複数の方向にそこからターゲット(前立腺)の形にあわせて線量を変化させながら照射しますが、照射時にはガントリーは固定されています。さらにIMRTでも、照射時にガントリーが静止しないでダイナミックにそれを行う回転照射がVMAT(Volumetric Modulated Arc Therapy)と呼ばれるシステムで体のまわりを一回転しながら照射。照射時間の短縮、より柔軟な線量分布が得られます。またトモセラピー(TomoTherapy)というシステムもダイナミックに回転照射を行うIMRTの一種ですが、CTのようなシステム内に内蔵されたガントリーがクルクルと何回もまわり、照射と同時に寝台を移動させて照射域を変えるシステムのため、体には「らせん状の照射」がおこなわれます。
前立腺がんの治療において、照射方式の違いによって多少の精度の違いはあるかもしれません、しかし局所への照射線量が同じであれば治療効果も同じと考えられますから、例えばトモセラピーだけが格段に成績が良い、とかいうことは「ない」ですね。ただし、より精度良い照射が可能であれば周辺臓器への照射線量が下がるため合併症も減らすことができるので、照射計画によってはその違いがありそうです。
典型的な放射線治療は画像誘導を使ったIMRT外照射で、週5回(土日が休み)、1回1.8Gy✕43回=77.4Gy で約2か月間の治療です。通院、または入院で行われます。病院によっては最初の25回までは3D-CRTによる照射である場合もあります。
合計の照射線量は高いほど癌の抑制に効果があるのですが、周辺臓器に照射される線量で制限され、日本ではおよそ80Gyくらいまでです。また1回あたりの照射線量が2gyとか、それ以上の場合もあり、その線量が高いほうが、癌の抑制の効果が高いため、合計線量が他の病院より低くても同等の効果がある照射方法もあり、単純に合計線量だけでは比較ができません。
リニアックを回転させながら放射線照射
「VMATの導入で欧米の先端放射線治療システムに匹敵する効果が、ごく短時間の治療で得られようとしています。これにエレクタ・シナジーを用いた、治療時のCT撮影システムを組み合わせることで放射線治療は新たな1歩を踏み出すことになるでしょう」
→放射線治療に新たな可能性を開くVMAT – がんサポート
IGRT
照射精度を向上させることで周辺の臓器への影響を抑え、どこまで照射線量を上げられるかが外照射治療のポイントですから、IMRTによる外照射や3D-CRTによる照射の場合でも、ターゲットの位置あわせには内蔵CTやX線などを使った画像誘導放射線治療IGRT(image-guided radiation therapy)の使用が一般的になっています。IMRT(あるいは3D-CRTなど)を高精度で行うためのシステムがIGRTと考えれば良いと思います。最近の放射線治療システムでは普通にIGRTの機能を備えていますから、IMRTによる外照射と言ってもIGRTが使用されており、その説明を受けることもあまりないかもしれません。
照射精度の向上
照射精度という言葉を何度も使っていますが、ここで言う精度とは、照射システム自体の機械的精度ということではなく、人の体(前立腺や精嚢)に対して、どうやって正確に照射野を合わせられるか、という相対的な精度のことです。
外照射治療では、事前にCTで撮影された前立腺画像に対して照射計画が決められています。実際の照射でも照射計画と同じ位置に前立腺があれば良いのですが、隣にある直腸や膀胱などの形が日々変化するため、前立腺の位置も同じではありません。このため照射直前にシステムに内蔵されたX線やCTなどで患者の前立腺画像を取得して、位置が治療計画とほぼ一致するように寝台の位置を補正します。
それでも、前立腺自体の変形や、治療中の前立腺の僅かな動きに対応するため、照射計画では前立腺の輪郭+マージンが照射野となっています。このマージンが小さいほうが隣合う臓器への影響を減らせますから、より高い線量を照射することも可能となるのですが、より高精度の位置合わせが必要になります。
照射精度を向上させるために、IGRTだけでなく、事前に手術によって前立腺に金マーカーを埋め込んでおき IMRTによる外照射で高いPSA非再発率を得ている医療機関もありますから、より複雑な照射方法(VMATやトモセラピー)のほうが有利かというと、そうとも限りません。さすがに画像誘導(IGRT)のない1世代前のシステムでは不安ですから、念のため使う予定のシステムが何であるか確認したほうが良いかもしれません。
また、個人的には、最近の高精度な照射システムなら、その方式よりも運用面での技術力の違いのほうが差が出るだろうと思いますから、同じ照射方式でも医療機関によって照射精度が違うと思われます。前立腺はいつも定まった位置にあるわけではなく、その動きやすい臓器に対して、どのような方法で照射精度を保つのか、照射線量、照射回数とも医療機関によって違いますから気になるところです。
前立腺癌の内分泌治療について
内分泌治療
内分泌治療は根治治療ではありませんが、おもに高リスク患者に放射線治療と併用して行われる場合は、その根治性を向上させるとされます。内分泌治療は、前立腺がんの高齢者、あるいは転移がある前立腺がん患者の方に使われます。この場合前立腺がん(及び転移がん)は縮小し、劇的にPSAも下がります。しかしながら癌が消滅するわけではありません。腫瘍の細胞がやせ衰えるというイメージでしょうか。さらに長期間内分泌治療を続けた場合、いずれ薬に抵抗性を持った「がん」によって内分泌治療の効果がなくなる時がきます、根治治療ではありません。
note
※1 外照射は可能だが非再発率で全摘手術に劣る
こう言われましたが、これは一般的なことではないかもしれません。この病院では高リスク症例に対して根治性向上を目指し「拡大前立腺全摘術+拡大リンパ節郭清」に積極的に取り組んでいます。その成績が比較的良く、この病院でのIMRTの成績を上回ることから、高リスク患者に対しても「根治性を考えれば全摘手術が良い」という言葉が出てきます。しかし通常は放射線外照射(IMRT)も有力な標準治療の1つ、第一選択であっても不思議ではありません。
がん告知の次は・・
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転移がないかの検査です。