前立腺癌が”現実”になった方へ

癌の可能性を指摘されて、あるいは癌の告知を受け、ひどく落ち着かない日々を過ごされているかもしれません。何かに集中していれば忘れられるのだけれど、ふと手を休めたとたん「癌のこと」を考えてしまう。当時の私もそうでした。

一番の心配は「転移が現れたりしないだろうか」、そして「根治するにはどうすれば良いのか」ですね。いっそ先生を信頼してすべて任せてしまおう、とお考えの方もいると思いますが、それはいけない。医師は妥当な治療を提案するのであって、それが最善の治療法とは限らないからです。

おそらく家族は”摘出こそが癌を直す唯一の方法”と信じていますから、あなたがEDリスクや高い尿漏れリスクにさらされると知っても、手術で早く癌をとってほしいと切望されるに違いありません。
また医療に詳しい友人に相談した場合でもダヴィンチに否定的な意見を言うとも思えません。さらに、医師も普通に摘出手術を勧めてきますから、あなたが黙っていたら自動的に摘出手術を受けることになる。

診察で、合併症として何が起きるのかという話の時、摘出では勃起神経切除による勃起不全や尿もれの話がでますが、同席した奥様に「そんなものは切除して結構です」ときっぱり言われた・・というのはよくある話です。しかしそれに否と言えない雰囲気ですから、治療の相談はあなた一人ですることをお勧めします。”ED*や尿漏れリスクより命が優先”という思考はわからないではないものの、所詮他人事だから言えることです。尿漏れパッドをつけたままの生活は憂鬱だし、勃起神経が切除されてしまうと、普段の排尿でも縮じんだままで出しにくいと聞いていますから判断は慎重に。
* ED:Erectile Dysfunction┃勃起不全

Doctor X:私失敗しないので

ところで、TV朝日のドクターXはご存じだと思いますが、困難な手術を前に「私失敗しないので」のセリフは患者に大きな安心を与えてくれます。また、ドラマ中で”腫瘍の広がりを目で確認し、手術でそれをすべて取り除いた”などというシーンも時々あります。
癌の広がりがそんなにはっきりと目視できるのだろうかと疑問に思うものの、例えば胃がん、大腸がんなどでは内視鏡で腫瘍を直接確認できますから、腫瘍のある範囲よりもより十分大きく切除することで、癌を取り残すことなく安全に手術ができるように思える。

テレビ朝日:ドクターX #3
画像:テレビ朝日:ドクターX #3

前立腺全摘除術は、
切除マージンの安全域がもっとも小さい癌外科手術のひとつ

しかし前立腺癌の場合は、内視鏡を使っても腫瘍は見えない。また、手術は癌を含む前立腺全体の摘出となるので安全のように思えるかもしれませんが、癌の悪性度が高い場合は前立腺全体から外に少し腫瘍がはみだしていることもあります。これを被膜外浸潤と言います。
 被膜外浸潤の多くは僅か数ミリですが、癌の悪性度が高いほど起こりやすいという傾向はあるものの、MRIやCTで浸潤が映るとは限らないためやっかいです。

このような場合、他の消化器系の癌のように「腫瘍があると思われる範囲よりひとまわり大きく切除できるなら」癌を取り残すリスクを下げられることになる。しかし前立腺の場合は、それに密着するように膀胱と直腸があります。まさかそれらの一部を切除するわけにもいかないため、より大きな範囲を切除することが出来ません。このため、ぎりぎりのラインで前立腺と精嚢を摘出せざるおえない。

次の画像をご覧ください、前立腺(Prostate)はこのように他の臓器に挟まれている状態で、このなかから精嚢と前立腺を尿道ごと切り取るのが摘出手術です。やっかいな手術であることがおわかりでしょうか。

画像:Accuray CyberKnife Prostate Cancer Animation

Bladder:膀胱 Prostate:前立腺 Tumor:腫瘍 Urethra:尿道 Rectum:直腸

また、医師は被膜外に浸潤した癌を目で確認できるわけではないため、医師から前立腺をすべて摘出できましたと言われた場合でも、それは予定された臓器の摘出が問題なく完了したということに過ぎません。「癌をすべて取り除けたかどうかはわからない・・つまり全摘出=根治とは限らない というのが現実です。
※ 前立腺全摘除術は、切除マージンの安全域がもっとも小さい癌外科手術のひとつとされます。

摘出こそが癌を直す唯一の方法、に疑問を持つこと

EDや尿漏れのリスクなどを覚悟の上で手術を受けるのだから・・つまり大きな痛みを伴うのだから良い結果が得られるはずと思いがちですが、そうとは限りません。トレードオフの関係にはないのです。早く治療を開始しなくてはと焦っているとは思いますが、摘出手術で良いのか、あるいは他の治療法が良いのか、今こそ冷静な判断が必要な時です。

幸いなことに前立腺がんは、ほとんどの場合その進行はゆっくりしているので、
癌が発見されたら治療を急がないといけない、という症例は希です。ほとんど(98%以上というくらいの)の方は、どんな治療を受けるか、あるいは生検をするかどうかの判断を、少なくとも1、2ヶ月先送りしたくらいでは”根治性に何も影響は出ない”と考えて大丈夫です。 もし医師に治療選択の決断を急がされたとしたら、それは患者の病状を考えてではなく、病院側のなんらかの都合かもしれない。

それでは・・
医師は、根治するための道筋を示してくれるのか?

いくつかの治療法の説明と、推薦する治療の提案はしてくれるでしょう。しかし医師に、「根治できますか?」と尋ねても、次のような理由で明快な答えは得られない。

PSAの基準値は4
基準値は4ならPSAが5とか8くらいでも根治できそうな気がする。でも20とか30を超えるレベルだと根治は難しいのではないか?と思われたかもしれません。・・しかしながらPSA値は、低いほうが癌の進行が初期である場合が多いという傾向はあるが、意外なことにPSA値は根治できるかどうかの指標にはならないのです。実際にPSA40や50以上でも、すんなり根治できた方がいる一方で、少ないながらPSA10以下でも、非常に悪性度が高い場合は転移が出現して根治できない方もいます。
 
画像検査の結果にに確実性はない
癌の悪性度はグリソンスコアで表されます。その悪性度が高いほど癌が被膜を超えて浸潤しやすいという傾向がありますが、MRIやCT、骨シンチなどの画像検査では、小さな転移や前立腺の外への浸潤の様子などは映るとは限りません。つまり画像検査の結果に確実性はありません。
 
さらに治療法によっても・・
ダビンチによる摘出や、放射線という治療法によっても根治の可能性が変わってくるわけですから、不確定要素が多すぎて、こうすれば治るとは答えられないわけです。

では、医師の勧める治療法に合理性があるのか、について考えてみると

普通に考えれば、患者のために良い治療法を提案してくれそうである。しかし、自分の勤務する病院に多額の投資をした最先端の治療システムが導入されていると仮定したらどうだろう。科の責任者であったなら・・多くの場合自院の治療を勧めるのではないかと思われる。一度、ダビンチの損益分岐点を調べて見ると良い。小規模の病院では稼働率を上げないと経営に悪影響を与えかねない。

手術1回当たりの病院の平均収入を100万円程度と想定すると、「ダヴィンチ」最上位機種で損益分岐点を達成するには、購入価格、メンテナンス費用、消耗品代、および外科医報酬を考慮すると年間121-195件の手術を行う必要があります。低価格帯のモデルXでは86-148件の手術で損益分岐点に達っします。
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泌尿器科の担当医は、まず摘出手術を勧めるのはなぜか・・

 泌尿器のがんには、前立腺がん以外にも、膀胱がん、腎がん、尿管がん、精巣腫瘍 などがありますが、いずれも治療法の中心は摘出手術です。したがって多くの泌尿器医師は、まず「摘出手術」から考える、というのがデファクトスタンダードではないかと思われます。

また泌尿器科医は癌以外の治療もするわけですから多忙です。優秀な医師であっても前立腺癌における他科の治療である放射線(しかも外照射、内照射とも多様な選択肢がある)の詳しい内容までは知らないかもしれない。つまり泌尿器科医は摘出手術には詳しくても、多様な放射線治療には詳しくない、と考えたほうがいい。

さらに、もし医師が他院に優れた治療法があるのを知っていたとしても、それを患者に伝えるだろうかと考えると、伝える医師は例外のように思える。

結局のところは、自分で治療法を探す以外に手はない

医師は「摘出こそが癌を直す唯一の方法」であるかのように話を勧めますが、前立腺癌の治療法は、それ以外にも放射線外照射、放射線内照射、粒子線、HIFEなど非常に多くの治療法があり、その中には摘出手術を凌駕する治療成績を出している治療法もあります。インターネット上には多くの情報(*1)がありますから、このページの情報を参考にご自身で探してみてください

もし、セカンドオピニオンを利用する場合、担当医に摘出手術を勧められているのなら、他院の泌尿器科の先生にセカンドオピニオンを求めても「およそ肯定的な意見を返してくるだけであり」あまり意味はない。この場合は他院の放射線治療医の先生に意見を求めたほうが、より広い視点で治療についての話が聞けるかもしれない。
参照:>>セカンドオピニオン
参照:>>治療の選択・患者の権利

*1 インターネット上には多くの情報がありますが、現在ではGoogleの方針で”医療、健康”に関するキーワード、例えば”前立腺癌”などでは、医療機関、製薬会社以外の情報がフィルタリングされて上位に表示されにくくなっている。その医療機関の情報は、自院で可能な治療のメニューを提示しているようなものです。自院で放射線治療とダビンチの手術を行っている場合などは、どちらの治療法も同程度の根治性とする事が多いので、友情な情報を探すのは結構難しいのではあるが・・・。
 
それでも、多くの治療法や、病院の記事などを自分で分析する作業を繰り返していると、しだいにどれが確からしい情報なのかがわかってきます。このサイトでも、そのための基礎的な知識を含む情報をたくさん詰めこんであります。

最後に2つ。

放射線外照射は高精度、ミリ単位で照射できる

放射線治療システムは自体は非常に高精度であることは確かでしょう。しかしながら照射を受ける人の前立腺は直腸内のガスや膀胱内の尿などの影響で位置が動き易い。照射時はシステムに内蔵するCTやレントゲンなどで位置を確かめてから照射しますが、この時のタイムラグによっては照射精度も低下するため、必要な照射域よりひとまわり大きいマージン領域を含んだ範囲が照射野になる。システム自体は高精度であっても、それがそのまま治療精度に反映されるわけではなく、本来照射の必要がない直腸や膀胱にも放射線があたってしまいそれが合併症を引き起こします。重粒子線にしても同様です。「ミリ単位で照射」は理論的なこと、それをそのまま信じてはいけない。

摘出手術であればチャンスは2度!は「ま・や・か・し」

泌尿器科医は「摘出手術であれば、再発しても放射線治療が受けられるが、放射線治療は1度しか受けられないので後がない」と言いますが、これもそのまま信じてはいけない・・・詳しくは本文で
 
また、再発したら、再度それを取り除けば良いのではないか?と思われるかもしれません。摘出手術における再発は、癌のわずかな取り残しが主な原因なのですが、画像検査でそれを見つけるのはほぼ無理であるため、再手術は困難です。たぶんこのへんだろう、で救済放射線治療が行われますがその成功率は50%程度。また再発した方の精神的なダメージは告知以上に大きいとも聞いています。

再発させない治療

もし再発したらこうする・・ではなく、どうしたら再発しないのかを考える。つまり治療する前の段階で、最も再発しくい治療であるかどうかを判断基準としてください。根治を目指すならこれ以外にありません。

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