前立腺全摘 – 癌など手術で切るに限る?

”癌など切ってしまうに限る?”

癌と聞いて、まっ先に思い浮かんだのは手術ができるのか?、つまり「手術によって摘出できる程度の進行度なんだろうか?」ということ。もし、小さな癌なら取ってしまえば 、それですべて済むと思いました。

一般的には、前立腺がん治療における摘出手術と放射線治療では、同程度の治療成績だとされるが、おそらく「どちらが優れているか一概には言えない」というだけだろう。

同じ治療法であっても、医療機関ごとに技量差があるはずなので優劣はある。したがって治療法と医療機関をセットで考えないと比較はできない。医師から特定の治療法を勧められた場合でも、その病院の都合もあるかもしれないと考えると、治療法の選択は慎重にならざるを得ない。


迷い: どの治療法を選ぶか?、それが決まらないうちはなんとも落ち着かない、先がみえないから不安になる。このふわふわした気持ちがずっと続くかと思うと、いっそ医者に言われるまま切ろうか、という考えも浮かぶ。そうすればもうあれこれ考えなくて済むから・・。

#Surgery

摘出手術の特徴

治療に関して、私の場合は「高悪性度のため放射線治療は適用できない、年齢を考えると根治性の高い全摘手術が良い」というのが担当医の意見ですから、詳しい説明は摘出手術についてのみで、このようなメリットがあると説明されました。

  • 手術では摘出した組織の病理診断によって、生検や画像診断よりも正確に進行度や悪性度を知ることができる。
  • 通常、摘出手術と同時に行われる骨盤内リンパ節郭清(※)によってリンパ節転移の有無が確認できる。
  • もし、手術後再発した場合でも放射線治療が受けられるので、チャンスは2度ある。しかし、初回治療に放射線を選んだ場合には、再発時に放射線再照射はできない。
  • 手術によって癌を取り切れれば再発はしない、手術は最も確実な治療法である

※リンパ節郭清:リンパ節を切除すること、根治性を向上させるために必要とされ30個以上ものリンパを取り除くことが多いが医療機関によってその実施状況は異なる

そして、手術には大きく分けて開放手術とロボット支援手術の2つがあるとして、それぞれの治療法の違いを聞きました。

ロボット支援手術(da Vinci Surgical System)

ダヴィンチによるロボット支援手術は、従来の手術に比べ傷の大きさを最小限に抑え、術後の回復期間も短く低侵襲であるという特徴がある。しかし肝心の根治性は、開腹手術に比べて格段に良いというわけではない。術後尿もれに悩まされる可能性もあるが、それはロボット支援だけでなく全摘手術に共通する問題である。私の癌の場合には・・「あまりお勧めできないが、ダヴィンチがご希望ならいつでも紹介状を書きますよ」と言われました。しかし・・そう言われたら、この選択肢は私にとって「ない」と同じです。


画像:da Vinci Xi – Surgical System│Acibadem International
da Vinci:

da Vinci│ダヴィンチが登場した背景 – 腹腔鏡手術からダヴィンチへ –
従来の「腹腔鏡手術」は、傷の大きさを最小限に抑え術後の回復期間も短いが、低侵襲の腹腔鏡手術を実現するには、医師の繊細なスキルが必要とされた。このため腹腔鏡は日本や韓国がリードしてきたが、海外ではその難易度から一般的とは言えない状況だった。
 
そこに登場したのがダ・ヴィンチ・サージカルシステムというロボット支援手術で、難易度の高い腹腔鏡手術の際の自由度が格段に向上し、手術の正確さを上げることができる。ダヴィンチによる全摘は傷が小さく、一般的には機能の温存に優れ、身体への負担も比較的少ないとされる。ただし、ロボット手術であっても、摘出するのは前立腺と精嚢で、操作するのは医師であるため、手術の内容自体は開放手術と何ら変わらない。
 
「ペイシェントカート」の4本のロボットアームが腹部に差し込まれているが、フィルムに包まれていて良くわからない。この写真からはまるでSFに出てくるシステムのように見える。

画像:intuitive-surgical-da-vinci

da Vinciについて | 日本ロボット外科学会

前立腺癌に対する前立腺摘除術(動画77分)執刀医:秦野直 於新村病院

 

ミニマム創手術(小切開腹腔鏡補助下 前立腺全摘術)

従来の開放手術よりも切開創を小さく(6cm程度)して、腹腔鏡補助下で行う開腹手術がミニマム創。この手術は従来の手術より技術的に難しいのですが、ハイビジョン腹腔鏡を使った拡大視により精密な手術ができる。これにより出血は少なく輸血を行う事は殆どない。開放手術よりは身体への負担は軽い。

拡大前立腺全摘+拡大リンパ節郭清 → 男性機能の温存はできない
この病院では、高リスク患者(ハイリスク症例)に対しては根治性の向上を目指すため、通常の手術より少し広い範囲を切除する「拡大前立腺全摘術」さらに通常よりも多くのリンパ節を切除する 「拡大リンパ節 郭清」を勧めている。

私は、これを聞いて、腫瘍を中に含む前立腺をより広範囲に摘出し、リンパもより多く切除するのだからするのだから安心だと思った。それにプラスして勃起神経を温存すれば理想的だと思ったのだが・・・よく話を聞くとそれは無理とわかった。
 
なぜなら、神経温存と言うから、なんとなく数本の紐のようなものを残すのかと思っていたが、そうではなかった。男性機能に関わる勃起神経は前立腺をぴったり包むように存在するが、拡大前立腺全摘術は、その神経を完全に含んだ領域を切除して根治性を向上させようとする治療であるため、その温存は当然できないということになる。私が勧められたのはまさにこの手術でした。
もちろんミニマム創でも勃起神経を温存することはできるが、拡大前立腺全摘の場合は無理なのです。

手術ならチャンスは2度、切ってすっきりさせましょう!

多くの方は「手術ならチャンスは2度ある」、「切ってすっきりさせましょう」という先生の言葉に同意されているようです。その気持はとてもわかる。治療法を考えるだけでも憂鬱になるし、いっそ切ると決めてしまえば楽になるとも思えるからです、しかし私は手術をすべきかどうか迷いに迷いました。

治療の選択・患者の権利

患者には、自分の治療法について自由に決定を行う権利があり、この権利を行使する前提として、必要な情報を得る権利を有しています。つまり医師は治療法に関して公平で十分な説明を行うべきです。しかしながら、現実にはそれがなされぬまま治療の選択を迫られることも少なくない。
 
診察時間が限られているため十分な説明ができないという面もあるが、前立腺癌の治療法は非常に多いため、医師も専門分野以外の治療法は良く知らないという事情もある。したがって自分の命を守るためには、事前に十分に調べた上で担当医と相談するほかありません。
もし、医師の説明が不十分で、よくわからぬまま治療を許諾したのであれば、それは真の許諾ではありませんから、その治療予定を取り消すことも患者の正当な権利です。
 
また、これまで検査でこの病院にお世話になっているから”ここで治療すべき”とまでは考えないほうが良い。他院での診察を受けたいので紹介状を、とかセカンドオピニオン受けたいなどでも、転院するわけではないので普通に紹介状を出してくれるはずなんですが、もし担当医が非協力的な態度であれば、「一生に1度の決断なのですから、納得できる治療を選ばないときっと後悔するので」として協力を得てください。
 
それでも態度が変わらないなら、その程度の医師だとして見切りをつけます。科長などより上位の医師に相談する。あるいは、カルテ開示請求(必要な検査データも添付するように依頼)をして、自分の検査データを入手しておき、他院での診察やセカンドオピニオンに使うという方法もあります。
カルテ開示請求は、特殊な要求ではありません。そう費用がかかるわけでもないので、病理診断書がもらえない時とかの場合でも、カルテ開示請求をして入手するという使い方をしても問題ないようです。

 


前立腺癌の手術療法について

前立腺癌の全摘手術について

前立腺がんの疑いが指摘された時、前立腺が正確にどこにあるのか、どんな働きをしているのかも知りませんでした。膀胱のあたりにある小さな臓器くらいの認識でしたから、簡単に「とってしまえば終わり」と思っていました。ところが調べてみるとそうでもない・・

手術ではどこを摘出するのか
前立腺は膀胱の下にある「栗の実のような形をした臓器」で、その中心を尿道が通っており、尿道は陰茎につながっています。前立腺摘出手術では、前立腺をその内側にある尿道ごとそっくり切除し、切断された膀胱側と陰茎に繋がる尿道を吻合(直結して縫う)します。さらに、前立腺に繋がっている精嚢、及び前立腺をぴったり包むように左右に存在する勃起神経も同時に切除します。この時、病期によっては勃起神経を温存することもできますが、男性機能のほとんどが失われることに変わりはありません。

画像:cyberknife ACCURAY テキスト追加
摘出することで、その肥大による排尿障害は解消されるという利点はありますが、前立腺の前後には排尿をコントロール尿道括約筋があり、手術ではそれらの一部が切り取られてしまうため、どうしても尿が漏れやすくなるという欠点もあります。
※ 手術ではどこを摘出するのか →Google画像検索:前立腺全摘術

前立腺は体の奥にあり、全摘では普通骨盤内リンパ節の切除(リンパ節郭清)も同時に行われますから、前立腺は小さな臓器であってもその摘出は難易度の高い手術だとされており、体の負担も軽くありません。全摘手術には、現在主流となっているダヴィンチ以外にも、ミニマム創、ミニマム創の応用(ロボサージャン、東京医科歯科大)などがあります。
 
従来広く行われていた開放手術や、慈恵医大などでの腹腔鏡手術もありますが、開放手術はミニマム創へ、腹腔鏡はダヴィンチへと進化したため、今それらを積極的に選ぶ理由はないかもしれません。

摘出手術の放射線治療、小線源治療に対する優位点

以下は、今回の治療の説明の時ではなく、後日、私が放射線治療を受けることを担当医に相談した時に、説明していただいた放射線治療に対する優位点です。
 
1.手術ではがん細胞をすべて取り除くことができれば再発はしない。しかし、放射線照射では消滅しないがん細胞がある可能性がある、と考えている。
  
2.インターネットでは放射線治療が夢のような治療のように書かれていることも多いが、手術同様、障害も起きるし、男性機能もやがて衰える、と考えている。
  
3a.摘出手術では、リンパ節郭清によってリンパ節転移の有無が調べられる。この病院では高リスク症例に対し約40箇所の拡大リンパ節郭清を行うが、その患者のおよそ20%からリンパ節転移が見つかっている。小線源治療ではこのようなリンパ節への転移に対して、どのように対応しているのかが疑問である。
※ この病院では放射線外照射の場合でもリンパ節郭清を行うこともあるそうです。
 
3b.高リスク患者などで、腫瘍が精嚢に浸潤している場合がある。手術では精嚢に浸潤している場合でも摘出するので問題はない。この点に関しても、小線源治療は対策がされていないのではないか?

→「放射線治療(及び小線源)に対する摘出手術の優位点」に関して

ダヴィンチは未来の手術を担う技術

2022年現在、ロボット支援手術は前立腺癌治療において真っ先に勧められる場合が多いようで、今後ともこの流れは変わらない、あるいは加速すると思われます。
我々日本人の多くが「最先端のロボット」と聞けば、高精度で完璧というイメージを持たれるでしょうが。確かに高精度ではありますが操作しているのは人間です。通常の手術ではメスの触覚が得られるのに対し、ロボットでは視覚に頼らざるを得ないという困難さもあります。それを補うのは、立体画像の拡大視、非常に操作性の良い鉗子、炭酸ガスで圧力をかけることで出血が押さえられるなどで、これらにより従来の手術より医師の養成期間も短縮できると聞きます。それでも摘出する部位は従来の手術もロボットでも同じですから、治療成績はその医師の技量しだいという面があることも今まで通りです。
 
私は、現段階では根治性という点において、ロボット支援手術をやや否定的に捉えていますが、今後、ロボット・システムの進化とAIによる強力な支援、術者の熟練などにより、将来的には根治性においても従来の手術に比べて格段に優位であるという時が来ると思われます。その時には医師ではなく、AIロボットにAutomaticで手術をしてほしいものです。

年間約120例 前立腺全摘除術 聖路加国際病院

癌は摘出しないと気がすまないという方など、どうしてもロボット支援手術が気になる方もいらっしゃるでしょう。聖路加国際病院の説明を御覧ください。

当科におけるロボット支援前立腺全摘術の特色は、まず高リスク<の場合でも、積極的にロボット手術を行っていることです。拡大リンパ節郭清(広い範囲のリンパ節を前立腺と一緒に摘出して根治性を高めること)や必要に応じて拡大切除をすることにより完治を目指します。
→ 泌尿器科 – 受診案内 – 聖路加国際病院
→ ロボット手術センター – 受診案内 – 聖路加国際病院

da Vinci Xiの説明 名鉄病院

名鉄病院のda Vinciの説明は、なかなか詳しくて良いと思う、ただし、名鉄病院の実績は調べていないので、お勧めしているわけではありません。

平成 28年 6月 4日、更に質の高い手術が可能となる最新のアメリカ合衆国インチュイティブ社が開発した 手術支援ロボットダヴィンチ ( da Vinci Xi ) を導入
→ 名鉄病院|da Vinci Xi 導入 

前立腺癌に対するロボット手術について

前立腺癌に対する前立腺全摘除術は、… 前立腺の剥離や膀胱と尿道の吻合が容易でないとう難点があります。さらに前立腺周囲には静脈叢が非常に発達しているため、手術操作が加わると出血しやすく、また出血が起こった場合に止血操作が難しいなどの問題もあります。
福岡大学 泌尿器科  田中正利 先生

『前立腺癌診療ガイドライン』2016 年版 概要

日本泌尿器科学会で作成された『前立腺癌診療ガイドライン』2016 年版から,ガイドラインの概要,作成者名簿,CQ・推奨一覧,アルゴリズム,本文を掲載したもの。やや難しいが、信頼できる非常に良い内容です。興味ある項目を、じっくりと読んでいただきたい。
がん診療ガイドライン│4 病期・リスク分類・ノモグラム
がん診療ガイドライン│8 前立腺全摘除術
がん診療ガイドライン│13 ホルモン療法
日本癌治療学会│がん診療ガイドライン


手術療法の続き、・・
・・・
本当に手術で良いのか。

トリモダリティ体験記

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