今、朝6時を過ぎたところです。実は私は小線源治療に併用する放射線照射のため”眼下に琵琶湖を望む某病院”に入院中の身であり、その病棟のデイルームでこれを書いています。それでは、がんが見つかる前まで時を遡ります(2015年5月15日)
2014年の夏、私が初夏に受けた集団検診の結果を知らせる通知が届いた。前立腺癌の項目で”PSA3.2、要精検”とある。しかし実際のところPSA3.2という数値がどんな意味を持つのかわからない。前立腺癌の疑いがあるということらしいが・・。
「癌の疑いがある」と知っただけで、それからは、なんとも落ち着かない日々を送ることになった。何かに集中していれば忘れられるのだけれど、ふと手を休めたとたん、「癌かもしれない」が思い出される、気持ちが晴れることがないのだ。
集団検診で前立腺癌の疑い – 前立腺って、どこ?
早速「前立腺って、どこにあるんだろう?」から調べはじめました。いままでは”肥大するとおしっこが出にくくなったりする”のだから膀胱あたりにある小さな臓器だろう、という程度の認識でした。もちろん何のためにあるのかも知りません。初期の癌なら「手術でそっくり取ってしまえば良いだけ」と軽く考えていました。
しかし調べてみると前立腺は体の中心部にあり、膀胱に密着し尿道をぐるっと取り囲んでいる。摘出するにはその尿道ごと切除するしかない。しかも、付随する精嚢も同時に摘出するという。
「精嚢ってなんだっけ」と思っても私の記憶にはないのだが、その文字からだいたいの想像はつく。・・・これはやっかいなことになりそうだと思った。
※ 前立腺がどこにあるのか「画像検索」で確認してみましょう、
体の中心部、膀胱のすぐ下で尿道を取り囲んでいる臓器が前立腺。
Google画像検索:前立腺 | 精嚢
そこで、もし癌の場合でも、しっかりとした治療が受けられそうな病院で検査したほうが良いと思い、地元では一番信頼できそうな、がん診療連携拠点病院である「県立Tがんセンター」に精密検査の予約を入れました。
がん診療連携拠点病院 Tがんセンター
「がんセンター」に来たのは初めてです、その名の通りがん患者ばかりの集まる場所と思うだけでも緊張しました。受付後、検尿と採血を済ませ、泌尿器科の待合室で診察を待ちました。たくさん患者がいて随分と待たされましたが、やっと私の番になり診察室に入ると、穏やかそうな白髪の医師、K先生が担当でした。
尿検査、血液検査
血液検査の結果、PSAは基準値3を下回る”2.97ng/ml”でした。尿検査の結果も特に問題はないようです。痛みや排尿障害などがないか聞かれましたが、ありません。自覚症状は何もないのです。
前立腺・触診
さらに前立腺の触診を受けることになった。泌尿器科の診察は初めての経験なのですが、これは話に聞いているので何をされるか知っています。先生は薄いゴム手袋をしながら「後ろにあるテーブルに手をついて」と言われ、私はおじぎをするような感じでテーブルに手をつき、先生に”しり”を突き出す格好になりました。指で直腸を探られ、うっ・・となりましたが、ほんの数秒のことですから、どうということはありませんでした。結果これも問題なしとのこと。
しかし担当医からは意外な事を言われた
低いPSAでも、前立腺癌が見つかることもある
PSAの基準値は普通4なのですが、私の受けた集団検診では、50-64歳は3という基準値を採用していたため要精検とされました。特に症状もなく触診に異常もないので、この程度のPSAなら「様子を見ましょう」とか言われそうなものです。しかし先生に「PSA4以下でも前立腺癌が見つかることもある」などと物騒なことを言われたため、では念のためという軽い気持ちでMRI検査の予約をしました。
MRI検査で影が見つかり、前立腺生検へ
後日、MRI検査を受け、その結果を聞きに行ったところ、たぶん何も見つからないだろうと思っていたのに、前立腺の左側、つまり前立腺左葉に影があるという診断だった。
まさか前立腺癌に・・・ まだ決まったわけではないが、MRI検査で影があるのに何もないとは思えない。こうなると医師に言われるまでもなく「生検」ということになる。癌の疑いという言葉が一気に現実味を帯びてきた。しかし・・
- 現在のPSAは2.97、去年だって1.6と低かった、3年前は0.7。
- 前立腺がんは高齢者のがん、私はまだ50代前半である
- 体調も良い、しかも自覚症状は何もない
こう考えると癌の確率は低い(※1)と思えるのだが、その確率をものともせず、まさにトントン拍子に事が進んでいるような気がする・・・、いや、こういうマイナス展開の時にはトントン拍子とは言わないはずだから、坂道を転げ落ちるように・・とでも言えそうな展開に思えてくる。
※1 癌の確率は低いはず?:
この時は気づかなかったが、後になって考えてみれば、数年前には1にも満たなかったPSAが、この10ヶ月間で約2倍に急上昇し基準値に到達したこと。その時の年齢が、前立腺肥大などでPSAが上昇しやすい年代よりも若い年代層(50歳代前半)であること。この2つの因子だけでも十分に疑わしいのである。
普通、前立腺がんは60歳代以降の発症が多く、PSAの上昇も比較的穏やかであることが多い。それに当てはまらないPSA上昇の原因が癌であった場合は危険である。これを知っていて担当医はMRIを勧めたと思われる。
もう、こうなると気分はすっかりがん患者
この日から本気で前立腺癌とはどんな病気なのかを調べ始めました。生検の予約は約1月先なので時間はたっぷりある、というかありすぎる。しかし、ネットで検索してもPSA3で前立腺癌などという話は、どこにもないではないか・・・。
検査予約から生検まで3ヶ月以上が経過・・待ちくたびれた
MRIの結果が出てからひと月後に、やっと生検のために入院した。待たされすぎて入院できるってだけで妙に嬉しかった。実は、これまで大きな怪我や病気はしたことがなかったので、これが人生初めての入院なのです。
入院当日は何もすることがなく、同室に入院していた前立腺癌の放射線治療の方と雑談をしたり、本を読んで過ごし、夕方風呂に入ってから就寝。明日は検査です。
いよいよ検査当日、朝の目覚めがどうだったのか、どういうわけか全く記憶にない・・・
さて、ここまで来ると皆様は、生検よりもその結果が気になるところでしょう。そこで、検査の様子は、あとで報告することにして省略し、先を急ぐことにします。
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生検が終わり、なんとなくほっとし気分良く眠りました。そして翌日退院。これで二泊三日の検査入院は無事終了です。
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いよいよ次は、生検の結果説明の日の話へ
#appendix
※ このトリモダリティ体験記の構成について
どのページでもこの上にある「区切り線」から上に記事、↓下の部分が、先頭にアイコンがついた解説や補足になっています。とりあえずこれより下を読まずに、上だけを読み進んでいただいても大丈夫です。
初めて前立腺癌と知らされた方向けの説明には
この↓若葉アイコンをつけています
PSAを作るのは前立腺細胞であって癌細胞ではない
PSAは、もともとは前立腺の上皮細胞で作られる蛋白質の一種で、その多くは精液中に分泌されますが、ごく微量が血液中に取り込まれるため、血液検査により男性なら誰でも一定量のPSAが検出されます。
しかし、前立腺に異常があると、PSAが血液中に多量に放出され濃度が高くなります。しかし他の臓器の異常ではPSA数値に影響はなく、前立腺の異常にのみ反応することから、PSAは前立腺癌の可能性を示す精度の高いマーカーとして利用されています。
つまりPSAは癌細胞のみによって作られるわけではないため(癌細胞もPSAを作りますが、それは前立腺細胞が変化したものであるから)、PSAが高いからと言って「癌」であるとは限りません。
PSAは前立腺の体積に比例して増加する傾向にあり、前立腺の肥大に伴って上昇します。また生検や外からの刺激(自転車に乗るなど)でも上昇。さらに前立腺炎ではその値は短期間に急上昇する場合があります。私の場合には、前立腺炎の可能性を事前に排除するため、次の血液検査に備え初診時に抗生物質が処方されました。
”PSAが4以下なので、正常値??”
PSA値をそう解釈されているかもしれません。しかし、そうではなく健康な人のPSAはおおよそ2ng/mL以下であるとされますが、その2倍の「4ng/mLを基準値」としているだけです。
私の担当医の話では、従来「グレーゾーン」と言われていたPSA4~10ng/mLでも50%以上の方から癌がみつかるとのことで、グレーゾーンという認識はすでに過去のものだそうです。この50%以上という数値に驚きますが、この病院では生検を受ける前にMRI検査を勧めているため、その所見に疑わしい所がなければ生検を急がないと思われますから、PSA4~10ng/mLの方の5割以上から癌というわけではないでしょう。
また、前立腺がん癌を告知されホルモン治療を受けた場合、非常に高いPSAであったとしても一気にPSAが下がります。この時PSAが4ng/mL以下になったので「正常」と考える方もいらっしゃいますが、これも誤り。4ng/mLという値は未治療の場合の基準値であり、治療開始後には意味を持ちません。
ついでにもう1つ、薬局などで相談すると、基準値を超えないようPSAを少し下げる効果のある薬を勧められた、という方がいました。PSAはマーカーです、それを操作することに意味はありません。
また、皮膚科による頭髪維持の治療においては、ホルモン薬と同質(効き目は非常に弱いが)なものが使われることがありますが、この場合もPSAは本来の半分くらいになるようですから、基準値をそのまま適用できなくなります。
こちらで調べたことや、他のサイトからの引用には
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PSAが高い原因について
PSAが高い場合に考えられる疾患は①前立腺癌、②前立腺肥大症、③前立腺炎、などがあります。また、射精や長時間の車の運転のような前立腺への機械的な刺激でも軽度上昇する場合があります。
PSAが高いと言われた | 日本泌尿器科学会
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次は、いよいよ「がんの告知」
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